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地方自治体などは積極的にスタートアップ支援や誘致などをしている。しかし、地域間では「起業活動の水準」に大きな違いがあり、それは長期的に変化しにくいという。さらに、起業家になるには「遺伝」も関係があるとのこと。これらについて、詳細に解説しよう。※本稿は、加藤雅俊著『スタートアップとはなにか――経済活性化への処方箋』(岩波新書)の一部を抜粋・編集したものです。

40年にわたる共産主義支配でも
東独の起業文化は殺せなかった

 起業活動のための環境を整備する上で注意したいのは、地域間で「起業活動の水準」に大きな違いがあり、それが長期間にわたって変化しないという点です。「起業文化」を含めて、地域における環境はすぐには変化しないことがわかっています(Fritsch & Wyrwich, 2018)。ドイツの地域における起業活動の水準を長期的に追跡した研究を紹介しましょう(Fritsch & Wyrwich, 2019)。

 ドイツにおいては、1949年に東西ドイツに分断され、1989年のベルリンの壁崩壊、1990年のドイツ再統一まで、東西に別個の国家権力が存在する分断国家となっていました。この研究の著者たちは、西ドイツが資本主義市場経済を再建し、東ドイツは社会主義計画経済を目指すという両極端にある経済システムをとっていたことに注目しました。

 著者たちは、東西に分断される前後の環境変化を観察することで、急激で過酷な社会主義経済への環境変化によって、地域の起業文化がどのくらい政治の影響を受けて変貌するのか、それとも持続するのかについて明らかにすることができると考えたのです。

 興味深いことに、東ドイツにおける40年にもわたる反起業活動的な環境のもとでも各地域の起業文化は辛抱強く生き残り、国内における地域間の開業率の違い(序列)は、長期的にほとんど変化しなかったことが明らかにされています。

 なぜ地域の起業文化は長期的に変化しないのでしょうか。前述の研究では、いくつかの可能性が示唆されています。ドイツにおいてもそうであったようですが、地域ごとに産業発展の歴史的な背景に違いがあることがその一因と考えられるようです。

 したがって、政府や自治体が支援を通して地域の起業文化を変えることは短期的には容易ではありません。地域におけるスタートアップ支援の施策においては、5年や10年といった短期的なスパンでの成果を求めず、辛抱強く長期的な視点でスタートアップ・エコシステムの各構成要素を発展させていき、起業環境を整備していく必要があると言えるでしょう。