実際に、これまでの研究からは、人的資本の水準が高い起業家によるスタートアップの成功確率が高いことが示されています。たとえば、創業者の学歴が高いスタートアップは倒産確率が低い一方で、成功とみなされうる売却による退出の確率が高いことが示されています(Kato & Honjo, 2015)。

 また、創業者が関連業界における経験を持つスタートアップの成長率が高い傾向があることが見出されています(Colombo & Grilli, 2005)。関連業界の既存企業を飛び出して創業した従業員スピンアウトの成功確率は、独立スタートアップに比べて高いことが明らかになっています。

 このような業界経験を持つ起業家は、当該の業界における市場のさまざまな知識を有していることに加えて、取引先や資金調達先などの企業との間にすでにネットワークを有していることを含めて多くの面でアドバンテージを持っています。

創業者の過去の起業経験が
スタートアップの成否に与える影響

 さらに、創業者が持つ過去の起業経験がスタートアップの成否に与える影響についても多くの研究において取り組まれてきました。起業経験を持つ連続起業家は、起業を通して貴重な資源を獲得したり、チーム・ビルディングのスキルや業界の知識やノウハウを身につけたりと、学習することが指摘されています。

 特に、以前の事業で成功した経験を持つ連続起業家は、外部からの評判を確立することで資金調達がしやすくなる傾向があります(Hsu, 2007)。他方で、成功経験を持つ連続起業家だけでなく、失敗経験を持つ起業家でさえ、新しい事業ではVCからの資金調達において新人起業家に比べてアドバンテージを持つことが示されています(Nahata, 2019)。

 しかし、創業者が持つ過去の起業経験がスタートアップのパフォーマンスに与える影響については、慎重に解釈する必要がありそうです。先ほどの議論は、あくまで連続起業家が外部の資金提供者から高い評価を受けやすいことを示しているに過ぎず、起業家が過去の起業経験を通して学習することで高いパフォーマンスを示したかどうかは明らかではありません。

 起業家の人的資本の役割については、共同創業の場合の「創業チーム」全体に適用して考えても同様です。起業家は単独で創業する場合もあれば、他の誰かと共同でチームとして創業する場合があります。