銃社会アメリカを象徴する
トランプ氏の“初動”

 トランプ氏の行動については、銃社会に生きるアメリカ人らしい反応だったと言えます。

 銃声や爆発音を聞いた際に身を低くする行動は、日本人にはあまり馴染みがありません。日本では地震や火災の避難訓練は行いますが、銃撃事件への対応訓練はほとんどありません。

 トランプ氏だけでなく、周囲の聴衆も頭を押さえながら身を低くする行動をとっていました。これは銃社会で生活する人々ならではの理想的な初動です。日本人であれば、そのままの姿勢で状況を静観してしまう人が、多いでしょう。

 また、元大統領であるトランプ氏は、大統領在任時に危険時の行動についてブリーフィングを受けていたはずです。そのため、自ら身を低くし、その後で警護員に守られるという適切な行動をとることができたのでしょう。

 警備の観点からは、トランプ氏がガッツポーズをしたことは望ましくありません。しかし、70代後半で銃撃を受けた直後にガッツポーズをするという行動は、並外れた精神力を示しています。事前に想定していたとは考えにくく、これはトランプ氏の本質を表していると言えるでしょう。普通の人間なら、銃撃を受けて出血している状況で、このような行動をとることは困難です。

 レーガン大統領も銃撃された後、手術で執刀する医師らに「諸君らが皆、共和党員であればいいのだが(l hope you are all republican)」とジョークを飛ばしたことを思い出した。トランプ氏の行動も政治家としてのパフォーマンスの一面があったと考えられます。選挙期間中であり、強さを見せたいという本能が働いたのでしょう。

松丸俊彦
セキュリティコンサルタント

まつまる としひこ/警視庁に23年在籍。在南アフリカ日本大使館に領事として3年間勤務。南アフリカ全9州の警察本部長と個別に面会して日本大使館と現地警察との連絡体制を確立し、2010年南アフリカW杯サッカー大会における邦人援護計画を作成。警視庁復帰後は主に防諜対策(カウンターインテリジェンス)及び在京大使館のセキュリティアドバイザーを担当した。著作に『元公安、テロ&スパイ対策のプロが教える! 最新リスク管理マニュアル 激増する国際型犯罪から身を守るために』。