AI(人工知能)社会を支えるインフラの中心的な存在が、データセンターだ。データセンターはサーバーやネットワーク機器のほか、さまざまな種類の電気設備で構築される。特に生成AI向けの高性能サーバーを安定駆動させるために、その周りの電気設備にも高性能品が求められている。信頼性の高い製品やシステムを供給し、需要拡大が見込まれる日本企業8社を業界のプロが厳選した。(丸三証券アナリスト 松浦勇佑)
巨大テック企業のデータセンター投資急増
構築費用の約50%を占める電気設備
AI時代のインフラの中核的な存在であるデータセンターの建設が、アジアを中心に急ピッチで進んでいる。そこに欠かせない電気設備などで高性能品を供給する日本企業に市場が注目している。
米調査会社ガートナーによると、2024年の世界におけるデータセンターシステム向け支出は、23年から10%増の2596億ドルと予測されている。データセンターとは、データを保存するためのサーバーやネットワーク機器が設置された建物を指す。
データセンターへの支出が増加している背景としてAIブームが挙げられる。というのも、AIの運用には膨大なデータを取り扱う必要があり、その保管場所が必要であるからだ。
中でも、数千から数万ものサーバーを収容する大規模データセンターが急増している。米調査会社のシナジーリサーチ・グループによると、世界の大規模データセンターの数は24年初頭に1000の大台を超えた。拠点別に見ると、容量ベースでは50%超を米国が占め、欧州や中国が続く。
近年ではデータセンターの拠点を巡って、米欧中以外の地域にもスポットが当てられ始めている。足元では米マイクロソフトがタイやマレーシア、インドネシアでの投資を計画するなど、アジア地域におけるデータセンターへの投資計画が急増している。
データセンターが設置される側の視点として、アジア有数のデータセンターハブであるシンガポールは、19年にデータセンターの新設を禁止していたが、このほど環境配慮型(省電・節水につながる、再エネを活用する―など)データセンターの新設を認可すると発表している。AIの急速な需要増加に応える方針だ。
そして、日本においても米オラクルや米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)など、巨大テック企業によるデータセンター投資の発表が相次いでいる。
データセンター投資が従来の米欧中以外の地域に波及している背景には、データ主権の考え方が一つにある。データ主権とは、データは自国内で管理し自国の規制やルールの下で運用する、という考え方だ。つまり個人情報や企業の機密データは自国内で管理することが求められる。従って、データの保管場所であるデータセンターは自国内に設置することになる。
AIの普及に伴い、データセンターやデータを処理・保管するための高性能半導体製品、すなわち、GPU(画像処理装置)や、より高速なデータ転送を実現するメモリのHBM(広帯域メモリ)などの重要性が高まる。
さらに、各種の電気設備が必要になる。例えば、発電所からの高圧電気の供給を受けて分電盤に電気を配る設備である配電盤や、施設に設置されている照明や機械などに電気を分配する分電盤、そして施設で停電が発生した際に自家発電装置に切り替わるまでの間、電気を一定時間供給する無停電電源装置(UPS)などが挙げられる。
一般に、データセンターの構築費用を100とした場合、電気設備のコストは50近くを占めるともいわれる。
大量の電気を使用するデータセンターの安定的な稼働に必要不可欠な、こうした電気設備の供給では、日本のメーカーが強い競争力を持っている。次ページでは、そうした日本企業8社について、それぞれ強みとなるポイントとともに、今期と来期の予想営業増益率を、銘柄表にまとめて紹介する。