とか、そんな趣旨の盛りだくさんなアドバイスをした挙句、最後の署名は「愛の天使より」

 あるいは、友人たちに誘われ、新しいベンチャー企業を興そうと息子がたくらんでいると知った時は、

《「お前、絶対、騙されているぞ。お前を起業に誘った友だちは、要するにお前を金づるにしようとしているのだ。お前にはそんなことも分からんのか。それでもやりたいというのなら、騙される前に周到な手を打って、『金を出す以上、俺がすべて監督するからな』と言ってやれ」》

 というような趣旨のことをくだくだしく言った後、最後の署名は「共同経営者より」

要は「お前はただ俺の命令に
従ってりゃいいんだ」

 それから多角経営をしている自社を批判し、事業を整理して資金を一極集中させた方がいいんじゃないかと息子が言ってきた時には、

《「お前、ふざけんなよ。俺がどれだけ苦労して、この会社を経営してきたか、分かってないだろ。一極集中して失敗したらどうするんだ。多角経営して、事業の1つが経営不振になっても他の分野でカバーするというのがうちのやり方だ。かの経営の神様、アンドリュー・カーネギーだって言っているだろ、『初代と3代目は作業着を着る』って。これは初代が苦労して一から作り上げたものを2代目がつぶし、3代目はまた一から出直す羽目になるって意味だよ!俺の目の黒いうちは経営方針についてお前にとやかく言われる筋合いはない!会社の進路を決めるのは俺だ。お前はただ俺の命令に従ってりゃいいんだ」》

 というような内容のことを言っておいて、最後の署名は「ウォード船長より」

 こんなのを延々30通も読まされて、ほろりとくるのだろうか? 少なくとも私に関しては全然こない。落涙なんかしない。特に、手紙の最後に添える署名のイヤらしいことたるや、本当に趣味が悪い。

 というわけで、どうしてこの本が素晴らしい自己啓発本だ、父性愛の見本だ、みたいなことを言われるのか、私にはさっぱり分からない。

 ちなみにキングスレイ・ウォードにはもう1つ、同じく家業を継いだ娘に宛てた手紙を編纂した『ビジネスマンの父より娘への25通の手紙』という続編があって、これまた城山三郎氏の手によって邦訳もされているが、私の見るところ、こちらの方が嫌味がなくて読み易い。