松本問題でテレビに出ている有名弁護士は、当初ほとんど名誉棄損裁判の実態を知りませんでした。いや、一度法廷に出てみれば、ちゃんとした弁護士がテレビなどに出ているヒマはないことはわかります。1回の法廷に3人の裁判官、原告・被告側の弁護士と、当事者。つまり最低7人の日程を合わせないと法廷は開催できないわけで、「テレビのレギュラー出演がありますから」などと答える弁護士が、裁判官の心証がいいわけはありません。テレビに出ている弁護士のほとんどは、事務所の広告塔として、法廷など出ず、法律相談などに乗っているだけです。

 ですから実際の法廷のこともわからず、教科書的な反応をするか、吉本興業やジャニーズ事務所などテレビが大事にする事務所寄りのコメントをすればいいと、タカをくくっています。当初私が「それは現実の名誉棄損法廷ではありえない」ということを記事に書くと、民放各局から連絡が来て、「名誉棄損が語れる弁護士を紹介してくれ」と言われる有様でした。しかし、テレビに出ているというだけで、その人の発言を大衆は信用します。そのレベルの弁護士の話や、有名人インフルエンサーの声の方が耳に心地よいのでしょう。

時代遅れの倫理観をからかうのが
週刊誌の本来の仕事だった

 SNSはすぐに厳しい反応が返ってきます。正直、読むに値しない意見がほとんどですから、「ああ、この人たちはあのとき『鉄拳制裁』と叫んで悦に入っていた人と同じで、少し時代が経つと『恥ずかしいことを言っていた』と気付くか、少なくとも人前で鉄拳制裁などを擁護することが恥ずかしいと思うようになるだろう」とは思います。しかし心の中では、「嫌よ嫌よも好きのうち」という男性的論理をまだ信じている人間は大勢いるし、これからも信じ続けるでしょう。松本氏が主張していることはそういうことにすぎません。

 この時代後れの倫理観を振りかざす男性を「恥ずかしい、ダサい」とからかうのが本来の週刊誌の仕事で、正義漢ぶって書くのは新聞の仕事でした。ただし今の新聞は、もはや記者クラブの伝達機関でしかなく、独自記事などほとんどないので、週刊誌にその役割までが回ってきています。それが今の週刊誌の現場の辛いところだとは理解しますが、やはり時代の空気を断罪するのは週刊誌の仕事ではなく、週刊誌の記者はもっと愉しめて、しかも教養にあふれる記事を書いてほしいと思っています。