企業と大学と学生の「三方よし」を目指していきたい
商社勤務時代から世界を飛び回り、旅行・留学業界に腰を据えていた万浪さんは、アジアはもちろんのこと、欧米の教育事情にも精通している。
万浪 アメリカやイギリスでは、企業の視点で就業体験をするものと教育プログラムとして就業体験をするものとの名称が異なり、前者を「インターンシップ」、後者を「コーオペレーティブプログラム」――コーオプ(CO-OP)教育と位置づけています。コーオプ(CO-OP)教育は、日本語に訳すと、「産学協働教育プログラム」といったところでしょうか。あくまでも、教育の一環です。コーオプ(CO-OP)教育の主軸は「学」であり、「インターンシップ」とはしっかりと区分けされています。日本はその辺りがやや曖昧で、コーオプ(CO-OP)教育については、大学も企業も牽制し合っているように見えます。
「産学協働」の旗の下で、日本ならではのコーオプ(CO-OP)教育はこれから増えていくのだろうか?
万浪 増やしていかなければいけないと思います。「産学協働教育プログラム」が、いまの日本の社会環境や教育システムのなかでどういうプロセスなら浸透しやすいかを研究したうえで、成功事例とともに展開していければ、と。アメリカで行われているものを日本の慣習にカスタマイズしたからといって、うまく広がるわけではありません。「インターンシップ」のほうも、アメリカでの一般的なインターンシップは、有給かつ長期にわたるもので、日本の、就活の一環であるインターンシップとは違うものです。既存のルールを大きく変えることなく、「どうすれば、大学と企業が協働して、コーオプ(CO-OP)教育を行えるか」を検討していくべきでしょう。
地元・磐田市とのSDGsに紐づくアプリ開発、プロラグビークラブとの連携、紙加工・紙素材製造企業との新商品開発……万浪さんが教鞭をとる静岡産業大学の産学官連携は実に多彩だ(*10)。学生が実社会の現場を「学びのフィールド」として、さまざまな課題解決の方法を学んでいる。一教員(経営学部准教授)の立場で、万浪さんが学生に向き合い、心がけていることは何か?
*10 静岡産業大学ホームページ「産学官連携プロジェクト」参照
万浪 3つあります。1つ目が、伊藤忠商事が掲げる「三方よし」の考え方です。教育プログラムや研究開発が、学生にとって「よし」、企業にとって「よし」、そして、大学にとって「よし」のものであること。2つ目は、「社会の変化に合わせて、学生が成長していく」教育プログラムを作り、学生の一人ひとりが社会と自分自身に向き合う支援をすること。3つ目は、企業が社会人に望む資質と能力を、学生が身に付ける教育を行うこと。企業が求める資質は、主体性であったり、協調性であったりと、さまざまです。また、必要としている能力も、課題解決であったり、創造力であったり……私の授業や大学の教育カリキュラム全体を通してそれらを習得できるようにしたいです。と同時に、学生自身が突き詰めたい専門性を、私は大切にしていきます。