実務家教員ならではの授業を作り、展開していく

 教員が教科書をベースに講義形式で授業を進めるSBL(Subject-based Learning/科目進行型学習)よりも、PBLは学生自身の能動的な学びの姿勢が必要とされる。その分、グループワークなどでは個人差が出てしまうのではないか? 前向きに授業に参加する学生と、そうではない学生とのギャップを、万浪さんはどう見ているのか。

万浪 たとえば、授業に参加する学生一人ずつが個別に「プログラム」に向き合うと、すごく進んでいく学生もいれば、なかなか進まない学生もいます。ですから、私の授業は、一般的なPBLと同様にグループで取り組むようにしています。グループ内で役割分担がなされ、チームワークを目的にしたコミュニケーションが重んじられることで、一人ひとりが置き去りにならないようにしています。それでも残念ながら、グループ内で離脱するメンバーも出てきます。授業には参加するのですが、「わたしはよくわからないから、みんなに任せるよ」と、他のメンバーに依存し、消極的になってしまう。グループ内のメンバーが多ければ多いほど、動かなくなるメンバーが出てきます。かと言って、1グループ2~3人だと、離脱は減りますが、各人の負荷が重くなってしまう。1グループ4~5人が、一人ひとりに程よいミッションがあって、ちょうどよいと私は思っています。

 万浪さんが行っている産学協働のPBLは、企業と学生の関わり合いが肝になる。たとえば、昨年度の授業では、10個に分かれたグループそれぞれが「お題」に対する提案書をまとめ、企業の担当者にプレゼンを行ったようだが……。

万浪 与えられた課題に対して、自分たちなりのアイデアを考え、提案書にしてプレゼンする――ここまでは、すべてのグループが必ずできるようになります。ただ、提案内容が良いか悪いか、浅いか深いかには差異があって、課題を提示した相手、つまり、企業の担当者からリアルな評価をいただくことで、学生たちの気づきが生まれます。たとえ厳しい評価でも、グループとしての提案なので、個人攻撃にはなりません。「Aグループは、○○の現状分析は素晴らしかったけど、知恵出しのところは工夫が足りなかったね」などと言われると、学生たちは気落ちします。長い時間をかけて考え、作り上げた提案ですから、みんなの頭は真っ白になります。4人のグループだったら4人全員がしょんぼりする。しかし、昨年度を振り返ると、しょんぼりしたメンバーのなかには、後期も履修登録して、別の課題に再チャレンジする学生がいました。授業をきっかけに、課題解決型のインターンシップに挑戦したり、ボランティア活動に応募したりした学生もいて、授業での学びを深めていました。

 新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、大学では、オンライン授業も当たり前になった。2021年(令和3年)の文部科学省の調査では、「遠隔授業を活用した大学数」は、前年度よりも約20%増加している(*6)。

 そうした状況下で、万浪さんは、たとえば、オンライン留学について、「ウィズコロナ、アフターコロナ時代になって存在がなくなるどころか、さらに進化し、大きな役割を担うようになる」とも明言している(*7)。オンラインとリアルな授業を行うことができる現在(いま)、万浪さんは大学教員としての自分の役割をどう考えているのだろう。

*6 文部科学省「大学における教育内容等の改革状況について」(令和3年度)より
*7 サービス連合情報総研発行季刊誌「SQUARE」の特集「これからの留学マーケットの動向について考える」(万浪さん執筆)より

万浪 コロナ禍で、海外での「プロジェクト」を推進できなかった私は、その分、国内での授業を積極的に行う機会を得ました。また、現地に行けなくても、オンラインで「プロジェクト」を実施したことも良い経験になりました。

 PBLをはじめとしたアクティブ・ラーニングに積極的に取り組む大学は、学生たちを海外のボランティア活動や就業体験に取り組ませたいという考えも強くなっています。そうしたなか、旅行・留学業界での実務を経て大学教員になった私の役目は、企業側の視点と大学側の教育カリキュラムを効果的に組み合わせて、学生にとって価値のある「プログラム」と「プロジェクト」を組み立てることだと思っています。