オーバーツーリズムの対応策は、主には以下のアプローチが挙げられる。

 こうした対応案は観光振興策を考案する際に同時に考えていただきたい。そのうえでもしオーバーツーリズムの兆候が出てきたら、前述の「Doxyモデル」の初期段階から対応を始めるとよい。オーバーツーリズムの対応策はその地域の特性によっても変わってくる。地域特性は、たとえば都市部なのかリゾート地域なのかで区分けする方法、その観光地の受け入れ容量(キャパシティ)の大小とインバウンド観光客のアクセス利便性という2つの軸で区分けする方法がある。アクセスの利便性においては、地域内アクセスの利便性も重要なのだが、まずは地域へのアクセスの利便性で区分けをする。

 たとえば、キャパが広くアクセスが良いパターンは京都である。その場合の対策は、基本的には観光客の来訪総量をコントロールすることは難しいので、人気観光施設に関しては価格を上げる(無料の場合は有料化する)ことで調整する地域内分散が基本である。また、キャパが広めでアクセスが良くないパターンは、たとえば札幌や沖縄などの観光が強い中核地方都市であろう。その場合は、適切な価格調整とアクセス制限のバランスを工夫することと、来訪者の平準化が必要となるだろう。

 キャパが狭くアクセスが良いパターンは、たとえば鎌倉や軽井沢などであろう。の場合には、観光関係の価格を上げて流入量を制限することが有効である場合が多い。キャパが狭くアクセスが良くないパターンは、たとえば富士山のような希少自然型の観光地である。その場合には、観光関係の価格を上げて流入量を制限することが有効である場合が多い。

米国TDLのケースに学ぶ
住民理解・地域還元のハッピーサイクル

 上記は対症療法としてのオーバーツーリズムの対応策だが、より包括的には、いかに観光客からの収益を地域に還元するかという“ベネフィットデザイン”が重要になる。米国でも全くオーバーツーリズムがないわけではないのだが、比較的うまくマネージできている事例も存在する。

 その一つはディズニーランドを持つオーランドである。オーランドでは地元宿泊事業者の陳情で宿泊税が導入され、1978に税率2%で導入された観光開発税は現在6%(*1)となっている 。 日本ではホテル税などは固定で100~200円が多いので、かなり高額な印象かもしれないが、量から質への転換を図り、高付加価値→高価格→観光客からの税収増で地域還元を拡大し、地元住民の理解を得るというハッピーサイクルを回すには、オーランドの仕組みを参考にしてもよいだろう。

(*1)フロリダ州法ではこの税収が一般財源ではなく、目的税になっている。

(早稲田大学ビジネススクール 教授 池上重輔)