狂乱バブル ホテル大戦争#17Photo by Nami Shitamoto

ホテル業界は新型コロナウイルス禍でインバウンドが途絶えた一方で、「Go To トラベルキャンペーン」などの政府の支援策による“バブル”も体験した。その恩恵を大きく受けたプレーヤーの一つが星野リゾートだ。実は、同社の施設の中には、2023年度のADR(平均客室単価)や客室稼働率が新型コロナ禍を下回る施設も存在する。特集『狂乱バブル ホテル大戦争』の#17では、RevPAR(販売可能な客室1室当たりの売上高)の実績データから、アフターコロナの“勝ち組”と“負け組”を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)

コロナ禍で “倒産”の危機も
V字回復できた理由

 わが社の倒産確率は38.5%――。2020年5月、星野リゾート代表の星野佳路氏は全社員に向けてこう言い放った。

 20年春、新型コロナウイルスの感染拡大が観光業界を襲った。人の移動が制限されたことにより、ホテル・旅館の宿泊客は激減し、各社の経営は窮地に陥った。

 星野リゾートも例外ではない。星野リゾート・リート投資法人の業績データを見ると、星野氏が“最悪の事態”について言及したのは無理もないことが分かる。緊急事態宣言が発令された直後の20年4月、「星のや軽井沢」の客室稼働率は前月の73.6%から23.9%まで急落。「星のや京都」や「リゾナーレ八ヶ岳」の稼働率も16%台まで落ち込んだ。

 一方で、観光業界はコロナ禍で“バブル”も経験した。きっかけは、20年7月からスタートした「Go Toトラベル事業」だ。政府は飲食や宿泊の需要を喚起するため、2万円を上限に代金の2分の1を補助した。Go To トラベル事業を差別化のチャンスと捉えた星野リゾートは、施設内や周辺で“3密”を避けながら観光する「マイクロツーリズム」を打ち出してアピールした。この狙いは大当たりとなり、同社の業績はV字回復を遂げる。

 Go To トラベルによる補助が始まると、稼働率が大幅に上昇。同年8月から12月にかけて、星のや軽井沢では稼働率は90%台で推移。星のや京都、リゾナーレ八ヶ岳、界 箱根なども80%以上の稼働率が続いた。

 コロナ禍のバブルでは、平均客室単価(ADR)も上昇した。20年8月、星のや軽井沢のADRは11万0420円を記録。前年同期は10万8892円であることから、Go To トラベル事業がADRを押し上げたといえる。

 政府による支援策が実を結び、最悪の事態を免れたホテルや旅館は多かった。ただし、この刺激策は一時的なものにすぎず、ポストコロナでは各ホテル・旅館の地力が試されることになった。

 星野氏は「コロナ禍では、施設によって単価の高い部屋しか開けていなかった。コロナ禍が明けて、全室で予約を取り始めたことによって、ADRが下がっている施設がある」と説明する。

 目下、アフターコロナにインバウンド激増の要素も加わり、星野リゾートの各施設の序列は変化し始めている。直近の業績を見ると、販売可能な客室1室当たりの売上高(RevPAR)の伸び率に格差が生じているのだ。

 次のページでは、星野リゾートが展開するブランド「星のや」と「界」の6施設を分析し、「勝ち組」と「負け組」を明らかにするほか、星野氏の“ある仮説”を基にRevPARの伸び悩みの要因を分析する。