長期の視点で考えると
アグレッシブな人より真面目な人

 自分の立場を守るために周囲をつぶす、こういう人には部下をつけられません。でも、実はこういうリーダーは結構います。リーダーになって自分を守り始めるとダメですね。会社経営の立場から見ると、権力闘争ばかりしている人は「一番価値がない人」です。

 言い訳をしないこと、人の悪口を言わないことも大事です。まぁ、私は年中悪口を言っていますが(笑)。でも、自分の立場を守るための悪口は言いませんね。

 アメリカの酒蔵プロジェクトのCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)として赴任したのは、「獺祭」本社蔵の初代工場長です。「彼ならアメリカでその気になってやってくれるだろう」という思いで選びましたが、真面目であることが一番のポイントでした。

 世間一般にはアグレッシブな人のほうが評価は高いのかもしれませんが、実際の現場ではアグレッシブさはあまり役に立ちません。アグレッシブな人はパフォーマンスに優れているので一見すると良さそうなのですが、それは短期的な話です。ビジネスは長期の勝負です。長期的な視点で考えると、真面目で下から慕われる人がうまくいくと思っています。

「心配するな。
最初は絶対うまくいかんから」

――会長の有名な言葉に「心配するな。最初は絶対うまくいかんから」がありますが、失敗を恐れないこともリーダーの条件ですか?

 どんなに準備をしても、人間のやることですから100%うまくいくことはありません。うまくいかなかった時に、それを認められるかどうか、そして次の手を打てるかどうかが分かれ目です。

 ニューヨークで酒蔵をゼロから立ち上げる時、トラブルは付きものと覚悟していましたが、実際、米国ブランドの純米大吟醸「DASSAI BLUE」の仕込みは大荒れでした。

 仕込みの7本目までは獺祭の品質基準に達することができず、消毒用アルコールの材料になりました。とても経験豊富な本社蔵の工場長を米国に連れていきましたが、彼のメンタルが心配になったほどに追い込まれました。相当、厳しい状況だったと思います。

 でも、「普通の酒」ならばとっくにできていたのです。私も彼も、それ以上のものを求めました。挑戦の度合いが強まると、うまくいかなくなる可能性も大きくなります。成功のハードルを下げれば失敗はしないのですから。でも、ものを作る人は「これでいい」と思ってしまったら終わりです。

運を掴むのもリーダーの資質
運は星の数ほど天から降っている

 うまくいかないのは、「トライ&エラー」の数が足りないからです。私も旭酒造を継いでからずいぶん失敗して、みんなに笑われてきました。でも、エラーから次の成功が見えてきます。

 エラーを繰り返しても、私はとても「運」が良かったと自分で思っています。この「運」は誰にでも平等です。運は、星の数ほど天から降ってきます。誰に対しても、です。その運をつかめるかどうかも、リーダーの資質だと思います。

 なぜかと言うと「運の良しあし」は実はとても単純で、人が良くて考え方が変じゃない人が、やはり運が巡ってくるからなのですね。人の足を引っ張ることに忙しいような人は、目の前の運をつかめない。仕事に対して真面目で、曲がっていない人が運をつかめます。そして結果的に、運が良い人にポジションが来ます。