ドンキ創業者 安田隆夫の「遺言」#2Photo:PIXTA

時価総額にして約2.5兆円。小売業界でファーストリテイリング、セブン&アイ・ホールディングス、イオンに次ぐ企業価値を誇るのが「ドン・キホーテ」で知られるパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)だ。1989年に府中で1号店を出店して以来、34期連続で増収増益を続けている。一代で巨大企業を築き上げた創業者の安田隆夫氏は、75歳にしてこれから「最後の務め」を果たすのだという。緊急特集『ドンキ創業者 安田隆夫の「遺言」』の#2では、安田氏に最後の務めの中身と成長の秘訣、日本経済への思いを明かしてもらった。(聞き手/ノンフィクションライター 泉秀一)

最後の社会貢献は「日本に幸運をもたらすこと」
圧倒的な実績は運なくして不可能

――6月に発売した書籍『運』(文春新書)の冒頭で「運について語るのを本業以外の最後のライフワークとしたい」と記しています。思い切った発言をされましたね。

 もう私も75歳。自分にできる最後の社会貢献を考えた結果、日本に幸運をもたらすことだなと。とにかく、日本は運が悪い。皆、運が悪くなることばかりやっているわけです。運というと、非科学的だとして多くの人が取り合わないでしょう。思考停止して、真面目に運について考えてこなかった。

 私は、運に対する感受性が高いんですね。運にうまく寄り添って、それを起爆剤にして成功してきた。私はゼロから時価総額2.5兆円、売上高2兆円、営業利益1000億円の企業を作りました。こうした圧倒的な実績を上げることは、運なくして不可能です。

 だけど、決して私は他に比べて特別に運が良かったわけではない。人並みに良いことも悪いこともあった。私はね、個々人に与えられる運の総量は大差ないように思います。重要なのは、その運を使い切れるかどうか。もっと言えば、いかに幸運を最大化し不運を最小化できるか。運の総量をコントロールする、ということです。

 そうした私の運に対するパターン認識を、日本のために残したい。それが「運」を語ることを最後のライフワークにする理由です。印税を辞退して、本の値段をドンキと同じ“驚安価格”(本体720円+税)に設定して。

 運の追求はつまるところ、合理性の追求とほとんど同じです。人生はスポーツのトーナメントのように1試合の勝敗で決まらず、試合終了時までの点の総量を競う長期戦。10試合中9試合を僅差で負けても、1試合の大勝ちで逆転可能なゲームです。

 私は常に単に勝率を見るのではなく、打率と打点の掛け合わせが最大になる意思決定を意識してきました。社内では「打率と打点の交差主義比率」と呼んでいます。調子が悪い時は負けすぎない。好調な時は目いっぱい、圧勝する。そうなるような意思決定を常に心がける、ということです。

 ビジネスに置き換えると、追い風の時には徹底的に稼ぐ。大勝ちをする。腹八分目で満足する人は、幸運を最大化できません。得られる果実を完全に収穫できる者だけが、強運を物にできるものです。

 一方、逆風の時には熊が冬眠するように不運が過ぎるのを待つ。「アナグマ戦法」です。不運な極力動かず、じっと耐える。流れの変化を見逃さないように感覚を研ぎ澄ませて、次のチャンスに備える。このメリハリをうまく使い分けられるかどうかが、成功における最も重要なノウハウです。