圧倒的な強国であった当時の米国人は、余裕でそのスピーチをジョークと捉え、大笑いしたそうです。その財界人はそのあと私に、この会に来ていたネイティブ・アメリカンと小声で交わしたブラック・ジョークも教えてくれました。「新大陸に元から米国人・白人が住んでいたわけじゃない。我々が豊かな文化とともに暮らしていたのに、銃と欧州からのウィルスで、土地と生命を次々奪われました。それも日本のお陰ですね」と。

 実は、世界初の生物兵器も新大陸で使用されました。天然痘にかかった白人の使っていた毛布を、お土産としてネイティブ・アメリカンの集落に投げ込み、天然痘に対する免疫がない先住民を絶滅させてその土地を占領したのは、米国民の先祖です。彼らは奪った広大な土地を豊かにするために、今度はアフリカ大陸から黒人を鎖につないで船で運び、奴隷貿易と奴隷労働で豊かになりました。

 以降も、ハワイの王を白人移民がクーデターで倒して準州にし、その後の戦争では戦略爆撃で無差別に民間人を攻撃し、原爆を民間人の頭上に落としました(無人島で爆発させて、日本軍に抵抗を諦めさせるという案もあったのに、大統領が民間人の無差別攻撃を選んだのです)。

米国から過去の原罪を償う意識を
奪い去ったトランプの居直り体質

 このような米国を我々が許しているのは、なぜでしょうか。それはこの国が、法と民主主義による支配を理想とし、それを遵守し、遅きに失したとはいえ先住民に謝罪し、大戦中の日本人の収容所隔離にも謝罪し、今も世界の独裁国家やテロリロトと戦い、多くの犠牲者を出しながら過去の原罪を償う意識を持っている、と世界が認めているからです。 

 しかし、トランプは違います。アメリカファースト、つまりかつて欧州からの移民が盗んだ家に居すわることを宣言しているだけの人なのです。豊かなラストベルト地帯を懐かしむ米国人がトランプ支持の中心だと、メディアは言います。確かに彼らは気の毒です。しかし、それは自分たちも移民である以上、移民を排除して貧困から逃れるのではなく、トランプをはじめとする富裕層からの富の再配分で補うべきなのです。かつて黒人を奴隷として連れてきた人々に、移民反対を唱える権利はないと自戒すべきなのです。

 メディアは銃撃を受けたことで、「トランプは米国の分断を避け融和に走った」などと調子のいいことを書いています。しかし、トランプの公約(アジェンダ)を見れば、そんな楽観的なことは書けないはずです。