円安に歯止めがかからない。対ドル、ユーロはおろか、中国の人民元に対しても円は売られ、韓国のウォンに対しても円は軟調だった。インドネシアやタイ、マレーシア、フィリピン、チリ、トルコなど新興国通貨と比較しても円は弱含みで推移した。“円独歩安”状態で、政府・日銀は為替介入を繰り返すものの、その効果は限定的だ。ただし、米大統領選でトランプ氏が当選した場合、米国の為替政策が「ドル安重視」に傾く可能性はある。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
一段と鮮明化する“円独歩安”
なぜ日本の通貨だけが弱い?
円安になかなか歯止めがかからない。7月3日、ドル・円の為替レートは一時、1ドル=161円90銭台にまで下落した。1986年12月下旬以来の円安水準だ。円は、他の主要先進国の通貨に対しても弱い。いわば“円独歩安”の状況だ。
要因はいくつかある。一つは、内外の実質金利の差だ。実質金利とは、表面の金利からインフレ率を差し引いた水準である。わが国の実質金利はマイナス3%程度、世界的に見ても最低レベルにある。
また、国際収支の変化も重要だ。貿易・サービス収支は赤字が続いている。海外投資からの配当金や利子の受け取りを示す第1次所得収支はプラスだが、黒字の約半分は海外で再投資され国内に戻ってきていない。それに加えて、財政の大幅悪化分が日銀からの資金供給となって、市中にお金が有り余っている。これらの要因だけ見ても、円安が止まらない状況が理解できる。
当面、これらの要因に大きな変化がない限り、円安傾向が変わることは考えにくい。円買いの為替介入をしても、それは一時的に円売りにブレーキをかけるだけだろう。ただ、11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選した場合、同氏のドル安政策で円が買い戻される可能性はあるかもしれない。そうした変化が顕在化しない限り、基調として円安は止まらないと予想する。