1970年代から液晶テレビの実現に向けて研究を開始したものの、液晶テレビ「AQUOS(アクオス)」として商品化するためには、30年の年月が必要であった。とはいえ、その研究は30年間何も事業に貢献しなかったわけではない。初期の液晶は、白黒で応答速度も遅く、視野角も狭かった。しかし、シャープはその世代ごとの液晶技術で商品化可能な商品を考え続けた。

 初期は、電卓の表示パネルや時計などに応用し、そこから進化したパネルをゲーム機に、さらに進化したカラー液晶をビデオカメラ(液晶ビューカムで有名な液晶パネル付きのビデオカメラはシャープが初めて商品化した)や携帯電話にと、その都度、実現可能な技術を様々な分野の製品に応用し、発売してきた。

液晶はシャープにとって
まさにコア・コンピタンス

 こうした一つの技術や能力を様々な事業や製品に使い回すことを、コア技術戦略あるいはコア・コンピタンス戦略と呼ぶ。一つのものを大量に作ると量産効果によって、製品一つ当たりのコストが下がり利益率が上がることを、規模の生産性と呼ぶ。固定費は一定なので、生産量が増えると、1生産当たりに配分される固定費が下がるという理屈である。

 これに対して、事業の応用分野が増えると、固定費が複数の事業に配分されて、1事業当たりの固定費が下がる効果のことを、範囲の経済性という。つまり、コア・コンピタンス戦略とは、範囲の経済性によって、より利益率を高める戦略のことをいう。

 一般にビジネスでは、自社にとって重要な能力をコア・コンピタンスと呼びがちだが、本来のコア・コンピタンスの定義は、その事業にとって重要な能力であって、多様な用途に応用展開できるものと言われており、どんなに自社ユニークな技術や能力であったとしても、応用展開が効かないものはコア・コンピタンスとは呼ばない。

 シャープにとって液晶技術とは、コア・コンピタンスであり、「液晶のシャープ」という言葉は、シャープが液晶というコア・コンピタンスをシャープの多様な事業に応用展開するということを意味していた。