2023年1月26日に開催された「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のオンラインイベント「複雑・不確実な時代の 新規事業&プロジェクトを成功に導く組織とマネジメント」。基調講演に、経営学の専門家である長内厚氏(早稲田大学商学学術院経営管理研究科教授)が登壇。イノベーションのフレームワークを考える際に重要な概念「バリュークリエーション」と「バリューキャプチャー」、プロジェクトを成功に導くための「資源動員」や「両利きの経営」などについて論じた。「変革が常に正しいとは限らない」と語る長内氏。その真意は?(編集/ダイヤモンド・ライフ編集部 大根田康介、撮影/堀哲平)
イノベーションにおける2つの重要な概念
「バリュークリエーション」と「バリューキャプチャー」
長内厚(以下、長内) 新規事業やイノベーション創出のために、新たなサービスや製品を考えたり、今までにない考え方で新しいものを作ったり、とがったアイデアを生み出す。これができている日本企業は結構多いはずですが、なぜか日本ではイノベーションが起きていません。
実は、新しいものを作るアイデアはうまく浮かぶのに、それがビジネスとしてうまく収益に結び付いていないのではないでしょうか。
そもそも、「新しい組み合わせ」「新しいものを作る」というのは、イノベーションの定義でいうところの半分しか達成していません。もう半分の重要な定義が、「経済的な利益を生み出す」です。
米マサチューセッツ工科大学では、「バリュークリエーション」(価値創造)と「バリューキャプチャー」(価値獲得)の2つの概念に分けて、イノベーションのフレームワークを考えることが大切だと教えています。
「バリュークリエーション」とは、どのようなとがったアイデアを考えるか、何を作るかということ。それと同等もしくはそれ以上に重要なのは「バリューキャプチャー」だといわれています。作ったものから、いかに自社あるいは自国が収益を獲得するかということです。
よく日本の製造業では、いたずらに数を追わず、技術で差別化をする「選択と集中」が大事だといわれます。しかし「数を追うなら数を追うべきだし、差別化するなら数を追うべきでない」と、米ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は言っています。
一方で「両立もできる」とも言っていますが、いずれにせよ重要なのは、一定の数は追わなければならないということです。