シャープが行うべきだったのは、コア・コンピタンスのメンテナンスである。現在、堺の工場はAIのデータセンターに活用しようと計画されているようである。液晶パネルから新たなコア・コンピタンスの確立のために新たな事業に乗り出すのは、まさにコア・コンピタンスのメンテナンスであり、良いことなのだが、惜しむらくはこれがもう少し早く行われていれば、シャープの経営状況はもう少し良かったのではないかということだ。

 あるいは、コモディティ化した液晶工場を徹底的にコストリーダーシップ戦略で生き残らせるという手もなかったわけではないのかもしれない。2009年の10G建設の時点で、徹底的に外販を中心にしたビジネスに転換し、他者が使いやすい標準的なパネルを大量に低価格で供給することができていれば、液晶パネルメーカーとして台湾や中国、韓国と張り合うことができたかもしれない。

シャープの液晶事業に見る
「飛躍」と「凋落」の分かれ道

 液晶パネルの部材、設備メーカーには日本メーカーが多く、昨今の円安の流れがあれば、タイミングによっては日本の液晶パネルは価格競争力を強く持つことができたかもしれない。今日、ソニーのイメージセンサーがグローバルでトップシェアをとり続けることができているのは、同社の半導体ビジネスが、長年自社よりも外販顧客企業優先でビジネスを行い、価格と量の競争から逃げなかったことが大きな要因となっている。日本だから安いものは作れないという思い込みから逃れることができていれば、堺の液晶パネルにも違った歴史が待っていたかもしれない。

 技術は製品差異化の重要な要素ではあるが、その全てではない。シャープが液晶技術開発だけを戦略の全てにするのではなく、時代の変化に対応する組織の能力を持ち、あるいはコモディティ化する技術領域で、もっとビジネスの視点で事業を俯瞰することができれば、液晶の次を考えることでシャープが生き残るか、あるいは液晶の新たな局面で新たな戦い方をするシャープとして生き残るかを選択し、いずれにしても今より良い状況にもっていくことは不可能ではなかったかもしれない。

(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)