1975年から投資を行い、気がつけば夫婦どちらも働かなくても暮らせるようになっていたという個人投資家が、娘宛てに「お金と投資」についての手紙をしたためた。それが書籍化され、世界中でベストセラーになったのが、『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』(ジェイエル・コリンズ著)。たった1つに投資するだけ、というそのメソッドとは?(文/上阪徹、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

父が娘に伝える自由に生きるための30の投資の教えPhoto: Adobe Stock

中流の給与所得者は億万長者になれる

 日経平均株価が4万円を超えてからの大暴落と変動が激しくなっている株式市場。さらなる下落を心配する人、いまこそ始めるタイミングと考える人など、さまざまな形で投資に対して関心を高めている人がいることだろう。

 投資に関心を高めている人も少なくないだろう。投資がうまくいく方法とは、どんなものなのか。さらには、どうやって始めればいいのか。いろんな思いを持っている人が少なくないのではないか。

 投資に関する本は数々あるが、自身の投資家としての成功体験を娘に伝えようと、やさしく書かれた1冊、というのは珍しいかもしれない。それが、『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』だ。

 著者のジェイエル・コリンズは、1975年から投資を行っている。何度も転職をする中で、気がつけば夫婦どちらも働かなくても暮らせるようになっていた。その経済的な自由を手に入れたメソッドとは、どのようなものなのだろうか。

 本記事では、本書のトピックから興味深かったものを1つ紹介しよう。それは、「誰もが大金持ちになって引退できるか」。

 これは、著者のブログにやってきた、気になる質問だったという。彼はこう答える。

簡単に回答すれば、条件付きで「イエス」となります。中流の給与所得者なら、誰でも引退するまでに大金持ちになることは可能です。実際に全員がそうなるわけではありませんが、数字的には無理ではありません。複利計算を考慮すれば、わずかな資金を投資して100万ドルまで増やすことはできます。(P.53)

 いわゆる億万長者に、中流の給与所得者なら、なれるというのである。果たして、本当なのか。

40年で1億円以上を作れたシンプルな方法

 その証拠として、著者は過去の株式市場のデータを掲げる。特定の銘柄ではない。株式市場全体の平均利回り、あるいはインデックスファンドを使うだけで、である。

1975年1月から40年の間、市場の平均利回りは配当を再投資すれば11.9%くらいに、配当を投資しなければ8.7%くらいになります。この利回りで1975年に1万2000ドルをS&P500に投資していたら、40年後には107万7485ドルになっている計算になります。(P.53)

 1万2000ドルが手元にないなら、1975年1月から毎月130ドル、つまり年間1560ドルを投資し続ければ、2015年1月には98万5102ドルにまで積み上がっていたはずだという。毎月の投資額を150ドル、年間180ドルにしていれば、113万6656ドルになる。

 毎月、中流階級であれば投入できる範囲の資金で、たしかに億万長者になることができたというのだ。

過去40年間に市場は上下動を繰り返していたことを考えると、面白い結果だと思いませんか。ただし、複利で増やすには時間が必要です。若いときに始めることが重要です。もちろん、目標は100万ドルでなくても構いません。質問するなら「経済的自立を誰もが勝ち取れるか」と尋ねるべきでしょう。(P.54)

 注目すべきは、時間が必要になる、ということだ。手元にある1万2000ドルを数年で100万ドルにするのは簡単ではない。しかし、40年かけてなら、それこそインデックスファンドに置いておくだけで、達成できてしまったということである。

 そして、投資する額を増やすことができたなら、それだけ大きな額のリターンを得られることを意味する。だから、著者は「これだけやればお金持ちになれる」と記す。

稼ぐ範囲で使い、余りは投資する。借入金は避ける。(P.56)

 逆に言えば、投資できる「余り」がなければ、成功はおぼつかない。収入と同額、あるいはそれ以上を上回る出費をするのであれば、投資はできない。お金持ちにもなれないし、経済的に自立することもできない。

 そこで著者が提案するのが、そのための計算式を明らかにすることだ。数字がはっきりしていないから、やるべきことが見えないのである。

信じてきたものを、見直す必要がある

 まずは年間、いくらの生活費がかかっているのかを理解する。資産の4%を使って生活をまかなうとすれば、ではいくら必要になるかを計算する。すると、何年、投資ができ、何年で自立が達成できるかがわかる。

 本の中に具体例が出ているが、やがて追加投資を行わなくても、お金は増えていくようになる。そうなれば、資産の4%という設定よりも、より良い暮らしができるようになる。

 計算を簡単にするために、税金が無視される一方、収入がまったく上昇しないことを前提としている。しかし、ここでは、どうなるかのイメージを記して、お金をただ使うよりも、多くの価値をもたらすことを見せたかったのだと著者は記す。

 ところが、である。

残念ながら、この方法を現実の選択肢として考える人は多くありません。そんな方法があることをわかりにくくする強力なマーケティング勢力が至るところに存在します。トレンドになっているくだらないものを使うべきだと、しつこく耳に流し込んできます。「手元にお金がなくても大丈夫。クレジットカードや消費者ローンはそのためのものです」と。(P.58)

 自分の収入では億万長者などにはなれない、と勝手に思い込まされるような生活習慣が、実は周囲から与えられてしまっていることに気づく必要がある、というのだ。そんなことは想像もできなくなる、と。お金を使わされるからだ。

 しかし、それは何かの陰謀だったりするわけではない。企業がビジネスを遂行しているだけなのである。それが、資産作りに悪い影響を与えているのだ。

市場は大変大きく、そこにある経済的な価値は底知れないものがあります。必要なものと欲求との境界線は、意図的にわかりにくくされています。ずっと前に私の友人が新しいビデオカメラを買いました。最高級品で子供の様子をすべてフィルムに納めていました。彼は興奮した様子で、「これがなくては、子供をうまく育てることなんて絶対にできないよ」と言っていました。(P.58)

 実際には、まったくそんなことはない。ビデオがなくても育てられた子供は、世界中に数えられないほどいる。ところが、マーケティングによって、そんなふうに思い込まされてしまうのだ。

 そして、余計なものを買うことによって、本来なら自由を手に入れることができた「経済的自立のために使えたお金」が、さっさとなくなってしまう。実は必要のない費用まで含まれた生活費を、より大きなものにしてしまう。

それがないと生活できないと誰かが言っても、従う必要はありません。こういう人はどこにでもいます。自分に必要なものを制限して投資を増やし、お金持ちになりたければ、信じてきたものを見直すことに意味があります。(P.59)

 億万長者、ミリオネアになる道は、そう難しいものではない。しかし、まず必要なのは、固定概念で塗り固められた頭の中を、変えることなのだ。

(本記事は『父が娘に伝える 自由に生きるための30の投資の教え』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『彼らが成功する前に大切にしていたこと』(ダイヤモンド社)、『ブランディングという力 パナソニックななぜ認知度をV字回復できたのか』(プレジデント社)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。