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――日本の民主主義は、どこへ進んでいるのでしょうか。

 率直に言うと、衆愚制からファシズムに近い状態へ進んでいると思います。

 代議制民主主義の特徴は、選挙によって国民から選ばれた政治家が、資格試験で登用された官僚を統制して、国家を運営することです。

 一般の国民は、選挙で政治家を選んだあと何をするのか? プロに任せた以上、政治的には何もしないのが正解です。そして経済活動や芸術活動で、個人の欲望を追求するのです。だからヘーゲルもマルクスも、市民社会を「欲望の王国」と呼びました。お任せ民主主義を批判する人もいますが、それが代議制民主主義の本来の在り方なんです。

――では、国民が政治意識を高揚させるのは、どういうときですか。

 経済が不調になったときです。欲望の王国では自分の欲望がうまく追求できなくなると、政治に対して「何とかしてくれ」とモノ申すのです。しかしこれは、悪循環の始まりです。

 なぜなら人間の持っている時間と資源は有限なので、政治に振り向ける分、経済活動にかけるエネルギーが失われるからです。つまり国民が政治熱を高めるほど、経済はどんどん悪くなっていきます。ヨーロッパを見ても、国民の政治意識が極めて高い国といえば、ギリシャやイタリアの南部、スペイン、ポルトガル。どこも経済状態が悪い国ばかりです。

 日本でもこのところ、政治に対する国民の意識が高まっています。仮に、ビジネスパーソンが仕事を休んで「岸田政権を打倒せよ!」という街頭デモに出てくる事態に至れば、経済活動は破綻してしまうに違いありません。

 働く方向に国民を誘導することが、日本が生き残る上では重要なのですが、実はファシズムがこの技法に長けているのです。