「新NISAに熱中する日本人」に自民党がニヤリ?佐藤優が暴く「自民一択」政治のカラクリ佐藤優氏 Photo by Wataru Mukai

なぜ日本人は新NISAにこれほど熱狂するのか。佐藤優氏は新NISAによって有権者の投票行動はおのずと保守的になり、票は自民党へ向かうと指摘する。国民が政治経済の“低位安定”を望む背景を「ファシズム」や「グローバリズム」の観点から解説してもらった。(構成/石井謙一郎)

この連載は、派閥論の名著と名高い渡辺恒雄氏の『派閥と多党化時代』(雪華社)を復刊した『自民党と派閥』(実業之日本社)を事前に読んでもらったうえで取材をしています(一部を除く)。

「新NISAに夢中な日本人」が自民党に投票するワケ

――渡辺恒雄さんの著書『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』の中で、現代に通じる箇所はありますか。

 この本に書かれているのは、基本的に歴史の話と理解した方がいいと思います。旧来型の日本の政治の完成体が描かれているのであって、現代とは完全に位相の異なった政治の記録として読むべきです。昭和40年代は経済が右肩上がりで、30代から40代だった若き渡辺さんの見た民主主義は、質的にも量的にもかなり異なる現代の形に変容したんです。

 中選挙区制の時代に書かれたこの本で、渡辺さんは、小選挙区制が導入されたらどうなるかという考察を行なっています。実際に導入されて判明したのは、小選挙区制が日本の政治に馴染まないことでした。

 ですからこの本に書かれている内容で、現代に通ずる部分はほとんどありません。あの時代のほうが、いい民主主義だった。ただし、もう戻らない。そんなふうに読めました。

――民主主義としては、この本の時代のほうがよかった。そう考えるのはなぜですか。

 近代の代議制民主主義の特徴は、政党で行動することです。政党は部分の代表者であり、その延長線上にある派閥もまた、部分の代表者です。部分の代表者同士が競争して均衡点を見つけ、折り合いをつけていくのが代議制民主主義政治です。

 権力と金には代替性がありますから、折り合いをつけてコンセンサスを得ていく中において、金が動くのは当たり前です。均衡点の後ろには利益集団があり、その利益を還元して全体の最適配分を行なうのが、民主主義の本来の在り方なんです。それがすなわち、小選挙区制が導入されるまでの旧来型日本の政治でした。

「新NISAに熱中する日本人」に自民党がニヤリ?佐藤優が暴く「自民一択」政治のカラクリ『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』(実業之日本社)1800円(税別)

 小選挙区制が導入された理由は、中選挙区制は選挙に金がかかるからというのが政治の当事者の認識ですが、実際はグローバリズムの中で新自由主義の波が襲ってきたからです。できるだけ効率的な経済運営を迫られる中で、民主的な政治には手間と金がかかりすぎる。だから権力を集中させ、規制緩和を進めて、巨大資本家が儲けやすいシステムを作ったんです。

――世界的な経済の流れと関係しているんですね。

 もちろんです。ところが2年くらい前から戦争の時代が始まり、グローバリゼーションには歯止めがかかったものの、国家機能が強化される傾向を示しています。

 代議制民主主義を軽視して形式だけにとどめ、権力を中枢に集中させる形態が進んでいるのは、世界的な傾向です。それを権威主義と言いますが、実態はファシズムの変形です。

――歴史は巻き戻されている、ということでしょうか。