休日に家族でモーニングを食べに行ったり、商談や友人との待ち合わせで利用したりと、長年かけて育まれてきた名古屋の「喫茶店文化」。時代と共に新たな魅力を加えながら、次の世代へと受け継がれている。「喫茶ツヅキ」では、“コーヒーマニア”の父が始めたパフォーマンスが名物。より楽しんでもらえるようにと、息子が試行錯誤して完成した技とは?(取材・文/フリーライター 杉山正博)
天井から注ぐカフェオーレ
父のパフォーマンスを進化させる
脚立に乗ってコーヒーとミルクを注ぎ、「カフェオーレ」を提供するパフォーマンスが有名な「喫茶ツヅキ」。50年ほど前にこのパフォーマンスを始めたのは、先代のマスターだ。
「先代である父は、コーヒーの研究のために北海道から九州まで、全国の喫茶店を巡るほどコーヒー好き。銀座を訪れたとき、コーヒーとミルクを別々のポットでカップに注ぐカフェオレに出合い、衝撃を受けたそうです。高い位置から注ぐのはただのパフォーマンスではなく、泡が消えにくく味がまろやかになる効果があるんです」
3代目マスターの都築秀紀さんはこう話す。実は、秀紀さんが喫茶ツヅキに立ち始めた13年頃には、カフェオーレは1日に1杯出るか出ないかという状況だった。それを、脚立をさらに高くして天井ギリギリから注ぐようにしたり、お客さんの口に直接注ぐパフォーマンスをしてみたり、より楽しんでもらおうと進化させたのは秀紀さんだ。
こうした試みがメディアの取材やSNSで広がり、今では1日に30〜50杯も注文がある人気メニューとなった。
現在は父親が行う仕入れ以外、店のことをすべて手がける秀紀さんだが、「若い頃は喫茶店を継ぐつもりはまったくなかった」と振り返る。
20代からコンビニに弁当を卸す会社で製造管理の仕事をしたり、名古屋のバーでバーテンダーとして働いたりしてきた秀紀さんが、喫茶ツヅキを継いだのは、結婚を機に日中働く仕事にシフトしようと思ったのがきっかけだ。
ちょうどその頃、父親が体調を崩して入院したり、長年勤めたアルバイトが辞めたりしたことも重なり、「継ぎたい」と父親に申し出た。父親や一緒に店に立つ母親は、秀紀さんが喫茶ツヅキで働くことを喜んでくれた。