廃棄漁網が携帯や自動車の部品に
ユニークな発想が生まれた背景

 具体的な事例で見ていこう。ドイツにエンバリオという化学メーカーがある。エンバリオはオランダのトップ化学メーカー「DSM」の樹脂部門「DSMエンジニアリングマテリアルズ 」と、ドイツの特殊化学メーカー「ランクセス」の樹脂部門「ランクセスハイパフォーマンスマテリアルズ 」が合併してできた企業である。

 この会社では様々なリサイクル樹脂の開発を行っているが、中でもユニークなものとして漁業で使い古された廃棄漁網をリサイクルしたポリアミド 「Akulon RePurposed(アクロンリパーパス)」という樹脂製品があり、携帯電話や自動車の樹脂部品として活用されている。

 漁網は漁業において欠かせない道具の一つであるが、消耗品でもある。主にナイロンでつくられる漁網は、大量に生産されると同時に減耗とともに廃棄もされる。インドでは大量の漁網が漁業で使われているが、廃棄漁網の不法投棄が問題になってきた。海に不法投棄された漁網は、ウミガメなどの海洋生物に危害を与えたり、マイクロプラスチックによる汚染の問題も引き起こしたりする。

 そこでエンバリオは、廃棄される漁網を回収し、インドにリサイクル専用工場を早くから建設してリサイクル樹脂を生産している。漁網に使われている樹脂はピュアなナイロンなのでリサイクルに適した原料ではあるが、とはいえ漁網として使われたナイロンには海のゴミや藻などが付着しており、ここからナイロンを再生するには技術もコストもかかる。

なぜ古い漁網が携帯や自動車の部品に変身?環境規制を逆手にとりビジネスを拡大する「逆転発想の競争戦略」インド南部で回収した廃棄漁網を仕分ける様子(写真提供:エンバリオ)

 一般的にリサイクルされた樹脂製品は様々な不純物が混入しているため機械物性にバラツキがあり、最終製品の品質のトラブルに繋がりやすい。さらにリサイクルの過程に費用がかかることも、リサイクル樹脂製品の普及を阻害する要因となってきた。