そのため、日本などの国ではこれまで再生原料の使用はなかなか進まない状況であったが、欧州には2007年に制定された化学物質管理の法制度であるREACH規制によって、欧州内で生産や使用がされる化学物質について、Registration(登録)、Evaluation(評価)、Authorization(認可)、Restriction(制限)の義務が課せられるようになった。エンバリオでは、このREACH規制の認証に合致したリサイクル樹脂の生産を早くから手がけることによって、後発企業よりも優位なポジションを築くことに成功した。

 欧州ではEnd-of-Life Vehicle(ELV; 廃車)指令が施行されており、現行指令では2015年の改定後、車両および年単位平均で自動車重量の85%がリサイクルまたリユースされることを各国に求めている。2023年7月に欧州委員会より提示されたELV指令改正案で、より具体的に、欧州で販売される新車の重量の25%が市場回収品からのリサイクル樹脂(Post Consumer Recycle: PCR)を使用することが議論されている。

 この規制に目を付けたエンバリオは、漁網を原料としたリサイクル樹脂を自動車用の部品として売り込み、現在、米国の自動車メーカーのワイヤーハーネスの固定クリップにも採用されている。

なぜ古い漁網が携帯や自動車の部品に変身?環境規制を逆手にとりビジネスを拡大する「逆転発想の競争戦略」インド洋に廃棄された漁網をアップサイクルして製造された自動車のクリップ(写真提供:エンバリオ)

厳しい規制に早くから対応して
新しいビジネスチャンスを掴んだ

 エンバリオジャパンの用途開発部マネージャーの生野雅也氏によると、漁網の再生ビジネスでエンバリオが持つ優位性は、REACH規制などの規制に早期から対応して、早くからインドに設備投資をしたことがアドバンテージとなっていると語る。まさにポーターが示したように、欧州の厳しい規制が、むしろ新たなビジネスチャンスを作っていると言うことができる。

 この事例において規制は、リサイクルにかかる追加的な費用など、企業のコスト増加をもたらす要因にもなっているが、率先して規制に対応した製品開発戦略を採ったことが、その後の規制の広がりに際して、先行者優位をもたらしているということができる。