サッポロホールディングスが、物言う株主の圧力で不動産事業を切り離す方向だ。「稼ぎ頭」が消えれば、祖業のビールで生き残りを模索する必要がある。ただ、業界4位のビール事業の立て直しも容易ではない。特集『ビール 最後のバブル』の#3では、サッポロで待ち受ける“いばらの道”の中身をひもとく。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)
サッポロに外資ファンドの圧力
不動産事業切り離しでビール専念へ
「丸くなるな、星になれ。」
サッポロビールが販売する生ビール「黒ラベル」は、こんなブランドメッセージを掲げている。競合他社がビールの味わいや喉越しを強調してきたのに対し、サッポロは情緒的なブランドメッセージを前面に押し出すことで地道に売り上げを拡大してきた。
サッポロは酒類の売上高では業界4位だが、足元のスタンダードビールのブランド別売上高では、黒ラベルはトップ3入りを果たしている(本特集#1『キリンの新ビールが「一番搾り」を超えた?独自入手のブランド別販売数量データから見える“業界内序列激変”の兆し』参照)。
目下、ビール類の税率を段階的に一本化する酒税改正によって、ビール各社は特需を迎えている。看板商品を持つサッポロも好調だ。
ただし、実はサッポロを待ち受けているのは“いばらの道”と言える。同社は今、「丸くなるな」とばかりに厳しい外圧をかけられているのだ。
仕掛けたのは、シンガポールの投資ファンド、3Dインベストメント・パートナーズだ。2024年1月時点で、サッポロホールディングス(HD)の株式のうち16.19%を保有する筆頭株主である。“物言う株主”が突き付けたのが、不動産事業の切り離しと酒類事業への集中だった。
恵比寿ガーデンプレイスを代表とするサッポロHDの不動産事業は、まさに「虎の子」である。23年12月期の不動産事業の事業利益は58億円となり、これは全体の約4割を占める。過去には、シェア4位に低迷する祖業のビール事業に対し、堅調な不動産事業を持つ同社は「サッポロビル」などとやゆされたこともある。ファンドはその事業ポートフォリオを大きく見直すよう主張したのだ。
さらに、ファンドとの攻防がもたらしたものは、同社のビジネスの在り方だけではない。サッポロHD社長である尾賀真城氏は、24年3月で就任8年目を迎えた。前社長の上條努氏と、上條氏の前の社長の村上隆男氏の在任期間から、社長任期の「慣例」は6年と見られていたが、異例の長期政権となっている。経営体制も“非常時”対応が続いてしまっているのだ。
物言う株主の圧力にさらされる中で、サッポロが選ぶ道とは。実は、事業ポートフォリオの大きな見直しによってリストラの大なたが振るわれる可能性がある。次ページでは、今後のサッポロが直面するシナリオを占う。また、尾賀氏の後任の次期トップ候補を明かし、経営体制の正常化のタイミングも予想する。