ビール業界でも製造現場で働く技能系人材の確保が喫緊の課題となっている。先手を打ったのが、サントリーホールディングスだ。同社は2025年1月に製造現場で働く技能系人材を対象に新たな人事制度の導入を計画している。柱となるのが、これまで複数のグループ会社に所属していた技能系人材を全て持ち株会社へ転籍させる大胆な待遇改善策だ。特集『ビール 最後のバブル』の#2では、新人事制度の具体的な中身とその狙いに加え、生産現場で働く技能系人材の給与実額も詳報する。(ダイヤモンド編集部 下本菜実)
サントリーが新人事制度を導入へ
入社7年目で月給40万円も!
ビール類の税率を段階的に一本化する酒税改正によって追い風が吹き、ビール各社のシェアを巡る争いが過熱している。その一方で、ビール業界は新たな競争にさらされている。あるビール大手の幹部がライバルとして挙げるのは「半導体メーカー」だ。どういうことか。
それが採用を巡る競争である。少子高齢化の加速で、学生数は減少傾向にあり、新卒採用は売り手市場が定着している。中でも、その傾向が顕著なのが、生産現場などで働く技術職である。
従来、ビール工場の製造機器の管理やメンテナンスなどを手掛ける技術系の専門職では、高等専門学校(高専)を卒業見込みの学生を積極的に確保してきた。しかし、半導体工場の設立ラッシュによる影響などで、年々、採用が難しくなっているのだ。
しかも、ビール工場の立地にとって重要な要素は「水」だが、これは、製造工程で有機物や微粒子を限りなく除去した純水を必要とする半導体工場にとっても同じである。実際、サントリーホールディングス(HD)の九州熊本工場は台湾の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)の熊本県菊陽町の工場に程近く、サッポロビールやキリンビールがビール工場を置く北海道千歳市周辺にも、ラピダスが工場を建設している。まさに半導体メーカーはライバルなのだ。
人事担当者の頭を悩ませるのは、新卒採用だけではない。中途採用で自社の優秀な人材を奪われることもあり得る。そのため、ビール各社にとっても、技術系専門職の待遇を上げ、優秀な人材をつなぎ留めることが喫緊の課題になっている。
技術系専門職の人材の確保策として、ビール業界で先手を打ったのが、サントリーHDだ。同社は2025年1月以降に技術系専門職を対象とした新たな人事制度の導入を予定している。その中身は、“実力主義”の要素が色濃く、給与水準は新卒入社から7年目で月給40万円を目指せるものだという。次ページでは、サントリーHDが導入を予定する大胆な待遇改善策の中身について、給与の実額なども示しながら明らかにする。