組織がウェルビーイングのために取り組むべきこと
ウェルビーイングは個人の取り組みだけではなく、社会全体としての課題でもある。そのために重要な役割を担うのが企業や団体といった組織だ。
ただ、2年ほど前の民間調査(*3)では、ウェルビーイングの認知度は大企業で8割近く、中小企業でも4割に達する一方、ウェルビーイング推進の社員の浸透度は4分の1程度だった。ウェルビーイング推進に関する課題としては、「効果の可視化方法がわからない」が過半数に達するなど、取り組みに苦慮している状況がうかがえる。
企業や団体がメンバーのウェルビーイングを向上させるためには、どのような点に留意すればよいのだろうか。
*3 HR総研「ウェルビーイングと健康経営」に関するアンケート結果報告(2022年12月)」
前野 メンバーのウェルビーイング向上に取り組む際、どの部門が担当するのかを社内ではっきりさせるべきです。それは、やはり、HR部門でしょう。HR部門のみなさんには、自分たちはメンバーのウェルビーイングを左右する重要な役割を担っているということを自覚していただきたいです。
HR部門トップの名称をCWBO(Chief Well-Being Officer)に変えるのもよいのではないでしょうか。CHRO(Chief Human Resource Officer)を使うケースが増えていますが、CWBOのほうが、部門の目的や覚悟がはっきりすると思います。
そして、現在行っているさまざまな人事施策をウェルビーイングの視点で見直してみてください。そのひとつが「1on1ミーティング」です。1on1ミーティングは、上司が部下と定期的に1対1で話し合い、部下のやりたいことや悩みを上司が聞き出す機会とされています。いわゆるコーチングの場であり、部下の自己開示を促すことでウェルビーイングを高める効果が期待されます。
ところが、1on1ミーティングをやればやるほど、幸福度が下がっている会社もあります。話題がなくなったら業務の話をしてしまうなど、1on1ミーティングの方法を間違えているからです。「1on1」という形から入るのでそうなってしまうのでしょう。
人手不足が深刻になりつつあるなか、企業にとって、ウェルビーイングは採用戦略としての重要性も高まっている。若い世代ほど、業績や知名度だけではなく、社会に対してポジティブなインパクトを与える企業かどうかが就職先の選択において大切な条件になってきているからだ。
前野 いまや、SNSをはじめ、社員はさまざまな情報のネットワークを持ち、それぞれの会社の職場状況も把握しやすくなっています。その影響もあって、企業規模に関係なく、社員が幸せではない会社ほど、新入社員がすぐ辞めるようです。
社会に対するインパクトも、「我が社の事業はSDGsのうちの〇番のゴールに対応している」というレベルでは不十分です。もちろん、SDGsへの取り組みはよいことですが、ゴールが17、ターゲットにいたっては169もあり、細かな展開になりがちです。もっと大きな旗のもとに自社の取り組みを打ち出す必要があると、私は思います。
その有力な候補が「ウェルビーイング」であり、ポストSDGsはウェルビーイングだという議論もあるくらいです。社会全体をウェルビーイングにしていくために自社はどのような貢献ができるのか――自社の活動のすべてをウェルビーイングの視点で捉え直してみることをお勧めします。
前野学部長の話は熱を帯び、こちらのウェルビーイングが高まるように、聞いていてわくわくする。いま、前野学部長が、企業・団体の人事担当者や経営層に伝えたいメッセージは何か?
前野 HR部門のみなさんには日々の業務において、ぜひ、“心を込めて”ということを意識してほしいと願っています。
昨今、HR部門では、売り手(=求職者)優位のなかでの採用活動、リスキリングといった社員の能力開発、さらには法律などに基づく新しい制度の導入など、業務の負荷が高まっています。そこに、さらにウェルビーイング施策が加わってくると、丁寧な対応はなかなか難しいかもしれません。
しかし、人事施策は形だけの取り組みでは意味がありません。むしろ、逆効果になります。“心を込めて”という感覚は難しいのですが、折に触れ、「何のために、いま、これをやるのか?」と問いつつ、日常の業務に取り組んでいただきたいです。
日本は少子高齢化で人口減少も進み、これから、経済力がどんどん低下していくと言われています。しかし、日本人のウェルビーイングを高めることが起死回生の解決策になると私は確信しています。
冒頭で、幸せな人は創造性が3倍高くなることをお知らせしましたが、みんなが幸せになればアイデアが3倍出るはずです。ビジネスをはじめ、さまざまな現場で頑張っている人たちのウェルビーイングを高め、アウトプットの付加価値をぐっと上げれば、社会の閉塞感も吹き飛ぶはずです。
みんなでウェルビーイングな日本をつくっていきましょう!