『週刊ダイヤモンド』8月24日号の第1特集は「半導体 エヌビディアvsトヨタ 頂上決戦」です。生成AI(人工知能)の爆発的普及とともに半導体業界を席巻する米エヌビディア。同社のAI半導体をめぐって、マイクロソフト、グーグル、アマゾン、テスラなど米国の巨大テック企業が争奪戦を繰り広げています。この「生成AI革命」に、自動車で世界首位のトヨタ自動車や日本企業はどう立ち向かうのでしょうか。ダイヤモンド編集部の総力取材で迫ります。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

エヌビディア時価総額は一時500兆円超え
半導体の主役は自動車からデータセンターに

 生成AIの普及とともに時代の寵児となったエヌビディア。6月には時価総額が3兆3400億ドル(約527兆円。当時)となり、米マイクロソフトや米アップルを抜いて世界首位に躍り出た。

エヌビディア半導体に米ビッグテックの巨額マネーが殺到!トヨタは生成AIの巨額投資の波に乗るか、飲み込まれるか?Photo:Diamond

 “AI相場”の陰りから現下の株価は調整局面にあるが、快進撃は止まらない。AIの計算に使う高性能半導体市場で、エヌビディア製GPU(画像処理半導体)は、米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)と米インテルといった半導体の競合を寄せ付けず、独占状態だ。

 2022年秋に「ChatGPT」が登場したのをきっかけに、米ビッグテック企業は、生成AIの開発競争を激化させ、エヌビディアのGPUを奪い合っている。

 エヌビディアの驚異的な売上高をけん引するのは、データセンター向け事業だ。ビッグテック4社は株価が下がってもデータセンターへの投資を減らしているわけではない。むしろ24年後半も投資を上積みしており、巨額資金がエヌビディアに流れ込む見通しだ。

 エヌビディアのGPUは17年頃から自動運転向けの半導体として期待を集め、トヨタ自動車など大手自動車メーカーが次々とエヌビディアと提携した。

 だが足元では、エヌビディアの自動車向け事業の売上高は11億ドルと伸び悩む。米テスラもGPUの大量調達に乗り出しているが、その用途は自動運転向けではなく、自社のデータセンター向けだ。

産業構造を激変させる「生成AI革命」
トヨタはGPUの巨額投資に乗り出すか

 ChatGPTとともにはじまった生成AIの爆発的拡大で好機を掴んだ米エヌビディアは、半導体業界だけでなく、米ビッグテックを含めたAI業界全体でも“1人勝ち”の情勢だ。

 だが、この「生成AI革命」は一過性のブームで終わるのではなく、世界の産業構造を激変させるほどのインパクトを持つ。その衝撃は、インターネットやスマートフォンが誕生して以来のものと言っても過言ではないだろう。

 GPUの需給逼迫を受けて「エヌビディア経済圏」は急成長を遂げている。そこでは、GPUの顧客であるビッグテックは投資を急ぎ、GPUのサプライヤーである台湾積体電路製造(TSMC)や韓国SKハイニックスが増産体制を敷く。すでに世界のテック企業にとって、エヌビディア経済圏を攻略できるかどうかが生命線になってきた。

 翻って、自動車世界首位のトヨタはどうか。トヨタが提唱する自動車会社からモビリティカンパニーへの変革は、言い換えればソフトウエア改革である。トヨタはGPUを使って自動運転システムの開発を続けているが、SDV(ソフトウエアが車の価値を決める車)の実現に向けてGPUの巨額投資に乗り出す動きは見えてこない。

 トヨタグループの認証不正問題が尾を引き、企業統治のあり方にも疑問符がついている。

 果たして、トヨタが引っ張る日本企業は、生成AI革命の荒波を乗り越えられるのだろうか。