お母さん先生が自宅の広間で生徒たちに向き合う――学研教室は、そんなスタイルの学習塾だ。三重県四日市市で学研くるみ教室を運営する根本知子氏もそんな女性指導者のひとり。幼児~中学生までを対象に、プリント教材を中心に授業を進めている。
そんな学研教室で「学研iコース」が、全国1万5000教室のうち1500教室で、3月1日からスタートした。これは小学生に絞り込んだコースで、生徒は教室と自宅の両方でタブレットを利用できる。6月からiコースを導入予定の根本氏は、「かなり魅力的でした。使いすぎに注意だと思いました」と、研修に参加しての興奮を言葉にする。小学生には操作感がゲーム機のように思えるタブレットで、動画やナレーションも盛りだくさんのコンテンツを通じて自宅学習課題をこなすことで、生徒の学習意欲向上が望めるというのだ。
教室でタブレットが使えることは、指導者にもメリットが大きい。学研教室は集団塾だから、指導者が生徒個々人に向き合える時間は限られる。「教室のスペースの都合もあり、一度に見るのは10人まで」と根本氏も語る。それだけの人数を1時間程度で見るわけだから、生徒1人にあてられるのは単純計算で5分程度だ。しかし、プリント教材でのちょっとした疑問が手元のタブレットで解決できるなら、指導者はじっくり教えるべき生徒に長い時間をかけられる。また、アシスタントを置いている大きな教室の場合には、タブレットの活用で指導の巧拙を均質化することも見込めるという。
小学生コースにタブレットを導入する動きは、通信教育各社にも広がっている。ジャストシステム「スマイルゼミ」、Z会「デジタルZ」、小学館グループ「テレビドラゼミ」など、大手各社がプランを打ち出しているのだ。
タブレットはパソコンと違って画面に直接書き込め、漢字や英単語の書き取りが紙のドリルと同じ感覚でできる。答えが同じ画面に現れるので、紙よりもテンポが速い。おまけに発音の読みあげや、理科の教材であれば、振り子の動きの動画解説までしてくれる。それらが生徒の意欲を刺激して、家庭学習を習慣づける。
学習塾にせよ通信教育にせよ、大切なのは、学んだことを定着させるための反復学習、要するに宿題やドリルだ。子どもにとって面倒で投げ出しがちだった反復学習をタブレットの魅力で習慣化させること。それが、利用者サイドにとっての最大のメリットだと言えよう。
いっぽう視点を180度めぐらして教室運営者サイドから眺めると、タブレット導入による意外なメリットが見えてくる。タブレットは紙の教材よりも初期コストがかかるが、各社コースとも利用者が6ヵ月間継続すると端末が無料になるといった優遇策を設けている。この利用者獲得のためのサービスのおかげで、タブレットコースに入会してもらえれば、最低半年の継続が期待できるというのは教室運営にとって大きい。
少子高齢化が進行中とはいえ、学習塾(通信教育)の利用率は小6生で3割(2割)、中3生で6割(2割)に達するという調査報告もあり、学校外学習の国内市場はかなりの規模になる。ベッドタウンの駅前に塾の教室が並ぶ光景からも見てとれるように、業者間の競争も激しい。そんな中、タブレットコースを設けることは他社との差別化要因となりそうだ。
各社コースともまだ始まったばかりだ。いずれ課題もいろいろ見えてくるだろう。2014年春には「スマイルゼミ」の中学講座が始まり、小学生向けがメインの現状から中学生へのシフトも進むだろう。今後の展開を見守りたい。
(待兼音二郎/5時から作家塾(R))