「少数精鋭」も言わんとしていることはわかるのだが、これも今の日本で推進したら、多くの犠牲者が生まれてしまうだろう。
 
 日本は教育基本法によって、幼稚園から高校という人間形成にもっとも重要な時期に「規範意識」を徹底的に叩き込まれるという、先進国の中でも珍しい教育方針を採用してきた。わかりやすく言えば、「ルールを守ってみんな同じ行動をするのが正しい日本人」という教育である。

 天才児はどんどん「飛び級」をさせたり、成績優秀者だけを集めてクラスを編成したり、ということが教育現場で当たり前の国ならいざ知らず、「みんなと同じ」を過剰に求める日本の教育システムの中で育った人々にいきなり少数精鋭だ、競争社会だと言われたら、ほとんどがパニックになってメンタルがやられてしまうだろう。

柳井氏の主張を無視するなら
戦前の日本と同じだ

 ただ、そういう個人的な意見ちょっと脇に置いて、あらためて両者を見比べると、これからの日本を考えたとき、柳井氏の提言にもしっかりと耳を傾けるべきという気もしている。

「本当に危機が迫っているときは、大衆が嫌がるような提言の方が的を射ていることが多い」という歴史の教訓があるからだ。

 もっと言ってしまうと、「世界との戦い」というシビアな現実を突きつけられた日本人は「日本人らしさ」みたいな精神論にすがって悲惨な結末をたどる、ということも我々は過去から学んでいる。