「石油がない、鐡がない、これはどうしても解決出来ない様でありますが、これとても私をして言はしめれば、今まで餘りに欧米式産業形態にとらわれ過ぎた為であると考へます。(中略)即ち、この様な狭い領域から飛び出した新科学時代を完成し、日本的な科学をもつて世界を指導しなければならぬのであります(中略)現代日本の資源対策も、目前の事にばかり拘泥せずもつと遠大な計画の下に研究を進めればこの風光明媚な日本の山河、何一つとして資源ならざるなきに至るであらうことを確信致す」(同書3〜5ページ)

 ここまで言えば、なぜ筆者が、柳井氏の提言にもしっかりと耳を傾けておくべきと考える理由がわかっていただけたのではないか。

 もし水野が訴えた「日米非戦」があの当時、もっと社会に受け入れられていたら、十数年後の総力戦研究所の「日本必敗」もあるいはもうちょっと違う受け取り方をなされていたかもしれない。国民をいい気分にさせない提言が、実は長い目で見ると「日本滅亡の危機」から国民を救うこともあるということだ。

 前澤氏の提言が悪いとか、間違っていると言っているわけではない。これをもてはやす「空気」が危ないと言っているのだ。

 前澤氏の話は、日本人として勇気が湧く。日本人はスゴイのだと誇らしく思えるし、「日本人らしさ」を押し出すことで国力がつく、というストーリーは希望が持てる。そうであってほしい、と心から願う人も多いだろう。筆者もそうだ。