特盛りM&A戦略による成長の原動力
「独自のSCM」とは

 ゼンショーは2019年からの5年間で10社以上のM&Aを実施し、“特盛り級”の規模で事業を拡大してきました。その成長を支えているのが、「マス・マーチャンダイジングシステム(以下、MMD)」です。

 MMDとは、調達から販売までの一連のプロセスを自社で完結する独自の仕組みで、サプライチェーン・マネジメント(以下、SCM)の一つです。

 SCMとは、製品の原材料が生産されてから消費者に届くまでのプロセス全体の効率化・最適化を図る取り組みです。この言葉は、1982年、米経営コンサルティング会社ブーズ・アレン・ハミルトンのK.R.オリバーとM.D.ウェバーが初めて使ったとされています。

 SCMに取り組むことで、企業は消費者に対して最短かつタイムリーに製品を供給できるだけでなく、在庫の適正化、リードタイムの短縮、設備の稼働率向上などによる効率化・最適化を見込むことができます。

 さて、通常SCMでは、自社の製品やサービスの価値の中心となるコア業務に集中し、非コア業務を外部に委託する戦略を取ります。吉野家や松屋も、加工や物流などの業務を外部に委託することで、経営資源を最も重要なプロセスに集中させています。

 一方で、ゼンショーは原材料の調達から製造・加工、物流、店舗での販売までを、一貫して自社で企画・設計・運営しています。例えば「すき家」では、牛丼の原材料である牛肉を生産者と直接やり取りをして仕入れています。その安全管理もゼンショー独自基準「ゼンショーSFC」に基づいて厳しく管理し、店舗に届くまでの物流も自社で行っているのです。

 同様に、サプライチェーン全体のプロセスを自前で持ち成功した企業として、家具業界で圧倒的な売上高を誇るニトリホールディングスがあります。

 ゼンショーが買収した企業には、このMMDが導入されます。つまり、MMDへの適合性が、M&Aの重要条件の一つになるのです。

 しかしM&Aされた企業は、既に別のサプライチェーンを持っています。これらの既存のサプライチェーンからMMDへの移行には、多大なコストと時間がかかります。例えば、製造プロセスの見直しや、既存の取引先との関係調整などです。

 それにもかかわらず、なぜゼンショーは、このような困難を伴うMMD導入にこだわるのでしょうか。