PRはPublic Relationsの略であり、究極の目的はすべてのステークホルダーを自社のファンにすることにある。しかし残念ながら、いまだにPRや広報は売上を伸ばすための手段、広告の一種と理解されるケースも少なくない。書籍『経営にPRを』では、中小企業の経営に本来のPRの視点を取り込み、「広報の自走化」で情報発信力を高めることの重要性について解説している。

PR・広報による「社員のファンづくり」の重要性photo AC

「社員のファンづくり」の二つの意味

 中小企業の経営改革にはさまざまなアプローチがありますが、まずは収益力を高めることが不可欠だと思います。収益力を上げるためには、ビジネスモデルの見直しが大事ですが、一つの手段としておすすめしたいのが「社員のファンづくり」です。

「社員のファンづくり」には二つの意味があります。

 一つは、社員を自社のファンにすることです。経営者の想いをベースに会社の存在意義(パーパス)を言語化し、それを社員に繰り返し伝え、共感レベルにまで深め、自社のファンにするのです。

 もう一つは、社員によって外部のファンを増やしていくことです。自社のファンになった社員を通して顧客・取引先・株主・地域社会などに会社の存在意義(パーパス)を伝えることで、多くのステークホルダーの間にファンを増やしていくのです。そうすることで経営を安定させ、新たな成長軌道を描くことが可能になります。

「社員のファンづくり」において私が特に重視しているのがPR・広報です。

 PRはPublic Relations の略で、ひと言で言えば「社会(公:おおやけ)との関係づくり」のことです。この場合の社会(公)とは抽象的なものではなく、社外の顧客や取引先や株主、そして地域社会、さらに行政などのほか、社員やその家族も含め、会社と関わりを持つあらゆる個人や組織・団体のことです。これをステークホルダー(利害関係者)と呼びます。

 PR・広報は、こうしたステークホルダーとの間で中長期的に良好な関係を構築・維持・発展させていくことが目的です。ひと言で言えば「ファンづくり」です。

 PR・広報の目的である「ファンづくり」の対象には、自社の社員も含まれます。そして、特に「社員のファンづくり」が重要なのが中小企業です。なぜなら、中小企業の多くは大企業のような知名度はなく、どんな事業をしているのか、どんな商品・サービスを扱っているのか、理解しているのはごく少数だからです。

 それゆえ、まずは最も身近なところにいる社員に、経営者の想いをベースとした会社の存在意義(パーパス)を理解してもらい、社員を通して社外のステークホルダーへ伝えることが重要なのです。

 こう述べると、「社員なんだから会社の存在意義(パーパス)などわかっていて当然ではないのか」と反論されるかもしれません。しかし、実際にはそんなことはありません。

 毎朝、経営理念を唱和している会社はたくさんありますが、多くの場合、社員は声に出して読み上げろと言われるからそうしているだけで、頭にはほとんど入っていません。ましてや、心に響いているケースがどれほどあるのでしょうか。中小企業の経営者であればご存じのはずです。

 ところが、テレビや新聞・雑誌、インターネットの記事などで取り上げられると、印象が格段に変わります。メディアという第三者を通して伝えられると「なるほど、そうなんだ」と自然に納得できるのです。