MMDが実現する
「範囲」と「規模」の経済性

 多少の困難が伴おうともゼンショーがMMD導入にこだわるのは、グループ全体の「規模」と「範囲」の経済性を意図しているからだと考えられます。

 規模の経済性とは、生産数量や契約件数など取り扱い数量が増えることで、製品一つ当たりのコストが低減することを指します。例えば、セントラルキッチンを導入したレストランでは、一度に多くの料理を調理することで、一食当たりに必要な人件費や光熱費などの固定費を下げることができます。

規模の経済性出典:GLOBIS 学び放題 「規模の経済性」より
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 範囲の経済性とは、既に持っている資源を他の事業でも活用することで、それぞれの事業を単独で行うよりもコストが削減できることを指します。例えば、牛肉を仕入れる際の物流ネットワークを他の食材の輸送にも活用することで、全体の物流コストを削減することができます。

超・経営思考(ゼンショー)_図4出典:GLOBIS 学び放題 「範囲の経済性」より
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 冒頭で述べた通り、ゼンショーの連結売上高は1兆円に迫っています。その売り上げ規模を考えると、同社が取り扱う牛肉や野菜、米などの食材の量が国内最大級であることは間違いありません。このスケールによってもたらされる二つの経済性は計り知れません。

 例えば、取扱量が増加すると、売り手への交渉力が強まり、大口発注や長期契約による割引などによって、材料の単価を下げやすくなります。グループ全体を通してMMDを導入しているからこそ、全体での購入量は膨大になり、「規模の経済性」をますます効かせることができるのです。

 また、同社はMMDを実現する中で、グループ全体のプロセス標準化にも取り組んでいます。これによって、例えば配送網という資源をブランドの垣根を越えて共有することができ、「範囲の経済性」を効かせた物流コストの削減を実現できます。

 グループが持つブランドが多いということは、仕入れた食材の出し先が多いということでもあります。つまり、「すき家」「なか卯」「はま寿司」などの飲食店・飲食サービス業に限らず、「マルヤ」「マルエイ」などのスーパーマーケットでも販売することが可能なのです。これも、それぞれが独自のプロセスを持っていては実現しない、MMD導入の恩恵といえるでしょう。

 さらにこの仕組みが巧みなのは、生産者にとっても得がある点です。ゼンショーによる大量の購入によって収益が安定し、廃棄によるロスを防ぎやすくなります。これにより、生産者にとってのゼンショーの重要度は上がると考えられます。そして、M&Aによってグループが大きくなるほどその購入量も増加するため、生産者に対する影響は、ますます大きくなるのです。