声は小さかったけれど、「好きでした」の響きが強かった。実感のこもった、厚みのある言い方で。きっと婆さんのお得意メニューが心に数えきれないほど浮かんでいるんだろうなと思いながら、黙って聞いていた。

 念のために書いておくと、祖母のことを身内間で婆(ばば)と呼ぶのは、東北や北陸地方ではめずらしいことではない。おばば、ばばさま、なんて呼び方もある。東北にルーツのある私は、その言い方に懐かしさを覚える。私の祖母はどちらも私が幼いうちに死んでしまったので、深い話なぞすることは出来なかった。彼女たちの得意料理とは一体どんなものだったろう。知りたかった。

 料理は独学で、レシピ本やネットを参考にして覚えてきたというニコさん。仕事に注力したいから、なるたけ手間のかからない料理をメインに日々をまかなっている。ただ、ときには手をかけた料理を作りたくなることも。

「仕事が忙しいときは特にですね。レシピのとおりやれば料理って必ずおいしくなるからうれしいんです。漫画ってそうはいかないから」

 料理をすることで、気持ちをほぐしたり、自分がほぐれたり。手づくりはときにそんな良さももたらしてくれる。

「味」ではなく「絵」で再現する
思い出の婆(ばば)の味

 ニコさんは、たまに婆さんの得意料理を作ってみることもあるようだ。