「ご夫婦とも個人事業主となると、銀行さんが難しいかもしれません」

 今は間取りを見るのが大好きで友達の不動産探しの相談に乗るのが趣味でさえある私だが、当時は全く無知だったので、わけもわからず食い下がる。

「えー、でも毎月の支払いはこのくらいでも大丈夫なんですが」

 その日暮らし稼業で、貯金はない。が、月々のローンならいくらか数字を提示できた。これで何が悪いのくらいの勢いだったと思う。

 丁寧な口調で返された。

「守秘義務で、本当はこんなこと絶対に口外してはいけないのですが、昔、弊社がご案内した〇〇さんでも、ローンが通らなかったという話です。野球選手も個人事業主さんなのでね。銀行さんはシビアなんですよ」

 誰もが知る、人気球団の4番打者だった。私たちとは比べものにならない億単位の物件だろう。それでも銀行はうんと言わないんだよ、身の程知らずが、と言われているようで丁寧なものいいが、よけいにぐさりときた。

「じ、じゃあ、個人事業主はどうやったら家を買えるんでしょうか。◯◯選手は?」

「野球選手は現金が多いです。あるいは頭金をできるだけ多く払って、最小のローンを組むようにされるのが最低条件かと」

 穴があったら入りたい。