「頭金」が貯まっても…
現実は一筋縄にはいかない

 私たちはすごすごと帰り、その日を境に「積立貯金」という新語が、我が家の日常で発せられるようになった。

 おりしも地元信用金庫の行員が、訪問営業によく来ていて、いつも「あー、うちはいいです」と断っていた。次に呼び鈴を鳴らされた日に、こちらから相談した。

 野球選手事件を話し、「頭金を貯めるにはどうしたらいいでしょうか」と。

 腰の低い真面目一本みたいなおじさんで、右も左もわからぬ私に、手取り足取り教えてくれた。

「これくらい必要なら、毎月〇〇万円で3年間。××万円なら5年間になります。漫然と貯金するのではなく、目標金額と期日を定めたほうがいいですよ」

 日中は仕事で銀行に行けないと言うと、「そのために私ども外回りがいます。毎月ご希望の日に伺ってお預かりします」。

 今も、個人宅にこのような御用聞きの行員がいるのかわからないが、私は彼のお陰で、3年で、頭金と言えそうなものを奇跡的に貯めることができた。

 あの野球案件がなければ、今も賃貸暮らしかもしれない。

 ただ、目標額が貯まり、欲しい物件の話も進み、不動産屋の勧める銀行の金利が高かったので、「貴行でローンを組めないか」と信用金庫のおじさんに相談したら、あっさり「残念ですが」と断られた。

 3年毎月欠かさず貯金をして信頼関係ができたとしても、やっぱり世の中はフリーランス稼業に甘くない。(「積立貯金を始めた日」より)