避暑地の別荘で行われるパーティーに出席
その夜、私はイラン北部、カスピ海沿岸の避暑地として知られる、シャッサヴァルという町に向かっていた。同地にある別荘で開催されるパーティーに出席するためだった。
あたりがすっかり暗くなったころ、タクシーはシャッサヴァル郊外の山道で停まった。
「着きましたぜ、お客さん」
運転手にそう告げられ、あたりを見回す。周辺にはいくつか別荘らしき建物が点在してはいるが、明かりがもれている家は一軒もない。
本当にこんなところでパーティーが開かれているのだろうか……不安になっていたその時、暗闇の中から見知らぬ若い男がこちらへ近づいてくるのが見えた。
「ようこそ、ミスター・ワカミヤ。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
男に案内されるがまま、舗装されていない脇道を少し下ると、一軒の家が見えてきた。こぢんまりとした、平屋の建物である。
薄暗い室内に通されると、すぐに見慣れた顔が目に飛び込んでくる。私をこのパーティーに招待してくれたサミラさんだ。
サミラさんはまだ20代だが、2~3年に一度は外車を買い替えるようなお金持ちというだけあって、こうしたパーティーもしょっちゅう開催しているらしかった。
「サトシさん、待ってたわ!疲れたでしょう?さあ、何でも好きなものを飲んでちょうだい」
カウンターに並んだ酒とつまみのラインナップに、私は目がくらみそうになる。密輸品のビールやウオッカ、ウイスキーなどが所狭しと並んでいるではないか。特注と思われるオードブルも、日本の一流ホテルで出てきてもおかしくないほど豪華である。