中東や北アフリカではおなじみの蒸留酒「アラク」もおいしい
ワイン以外に、干しブドウを原料とする蒸留酒、アラクもある。
ただし、こちらは蒸留酒のため製造には特別な装置が必要で、ワインのように誰でも造れるわけではない。私は一時期、近所に住むアルメニア正教徒の男性からアラクを買っていた。
キリスト教を信仰する彼らには、豚肉食と同様、飲酒のタブーもないので、ムスリムからは酒造りのプロと見なされている。実際、彼の作るアラクは素晴らしく、風味はもちろん、酔いの回り方もさめ方も文句なしだった。
こうした密造酒のほかに、主に陸路で周辺国から密輸されるウオッカやウイスキー、缶ビールなどもある。だが、密輸酒はべらぼうに値が張るので、普段の晩酌には贅沢すぎる。どちらかというとパーティー用、もしくは富裕層向けといった感じだ。
ただし、イラン人が毎週末のように開いている親戚同士のパーティーなどで、酒が出されることはない。自分の親など身内の面前で酔っ払うのは、はしたないことと考えられているからだ。そのあたりには、一応ムスリムらしい文化が残っている。
イラン人はいつ酒を飲む?
では、いつ飲むかといえば、気心の知れた仲間だけで集まるときだ。
私にも、年の近いタハ君(仮名)や60代のサイードさん(仮名)など、たくさんの飲み友達がいる。私たちが集まれば、おしゃべりや映画鑑賞、ボードゲームなどのかたわらチビチビ飲むのが常で、眠くなったら床を敷いておとなしく寝る。
日本で学生だったころは、毎晩のようにハイペースで酒をあおり、さんざんいらぬことを口走った挙句、明け方まで思いっきり羽目を外し、翌日になって激しい自己嫌悪に襲われていたが、そのころと比べればずいぶん成長したものである。
ところが、今から2年ほど前のある晩、平穏な飲んべえライフを送っていた私を再びあの忌々しい学生時代へと逆戻りさせるかのようなできごとが起きた。