『SHOGUN 将軍』がヒットした土壌
「日本すごいだろ」はほどほどに

 視点を欧米に移してみると、近年は欧米の日本コンテンツ制作が増加傾向にある。江戸時代の敵討ちを描いた『ブルーアイ・サムライ 第1期』はエミー賞アニメ部門を受賞、『となりのトトロ』舞台版は英国演劇界で非常に高い評価を受け、実写ドラマ版『ONE PIECE』はシーズン2の制作が開始された。日本が絡むコンテンツが欧米で受け入れられやすくなってきている土壌があるらしきことが確認できる。

 また、『SHOGUN 将軍』は劇中のセリフがほぼ日本語である(英語ではない)にもかかわらず評価を得るに至ったことも異例だが、これにはコロナ禍の巣ごもり需要によってアメリカ国内で英語言語以外のコンテンツが受け入れられるようになってきた背景がある。

『SHOGUN 将軍』のヒットはこうした土壌の上で生み出された。誤解なきように明記しておくが、こうした土壌は『SHOGUN 将軍』ヒットの”理由”ではなく、あくまで“土壌”である。同作のコンテンツ力があったからこそ、その土壌を活かしてヒットを勝ち取ることができたのだった。

『SHOGUN 将軍』の受賞はアジアの男優・女優が主演を張りうることや、日本コンテンツのポテンシャル、そして正しい日本の文化とその趣きを全世界に伝えるリマーカブルなものとなった。この偉業をぜひ祝いたいところである。

 ……と締めくくりたいところだが、知っておいてほしいこともある。『SHOGUN 将軍』や真田広之ら制作陣の偉業を称えるとき、日本コンテンツだからといって「日本すごいだろ」という顔をしすぎることには気をつけられたい。ネットではすでに、そうした人たちに対して「あなたや日本人全体の手柄ではない」という指摘が出ていて、論争(というよりケンカ的言い合い)が勃発しつつあるのである。

 双方の言いたいこと、なぜそう言いたいのかは理解できるのだが、実際にはなかなか不毛な言い争いなので、そこから距離を置きたい人は『SHOGUN 将軍』の手柄について「日本すごいだろ」と主張しすぎないのが賢明である。

(文/フリーライター 武藤弘樹)