実は時代考証やその正確な再現に対して、文字通り類を見ないほどの労力が払われたのが本作である。以下はその制作現場で行われた一例である。
・海外スタッフに日本を理解してもらうために歴史や文化をまとめた約900ページのマニュアルを作成
・セットの畳は土足禁止
・ケータリングに日本食
そして以下が、撮影にあたって試みられたうちのいくつかである。
・衣装にあしらう家紋の位置を正確にする
・サウスポーという概念がなかった当時にならって、兵隊は全員右手で槍を持つ
・わらじの履き方を練習する
・城には農民(役)を入れず、侍だけにする
外国映画で奇妙だった日本描写
それを覆したのも『SHOGUN 将軍』の功績
もはや執念と言っていいほどの熱量だが、こうしたこだわりの積み重ねが会心の評価を得るに至った。そうした予備知識なしに視聴した際でも、1分1秒、絶えず画面から並々ならぬ重厚感が伝わってきて圧倒されたが、そうした由来があったのかと後に知って得心した。
これは真田広之の功労だったそうである。プロデューサーとして日本をよく知る日本人のスタッフたちを起用し、撮影現場であるカナダに招いた。ミステリアスかつ誇り高い女性の役を見事に演じて主演女優賞に輝いたアンナ・サワイは、稼働日でない日も現場に来て知識の共有を行ったり、FaceTimeで何時間もセリフの確認に付き合った真田広之に感謝の念を表明したりしている。
確かに、ハリウッド映画に出てくるこれまでの日本は得てして奇妙であった。A級の映画でも日本が正確に描写されることは稀で、中華風のドラはしょっちゅう鳴るし、あれはなんの作品だったか、インド洋が「日本海」と称されていることもあった。