現在Netflixで配信中の『極悪女王』。そこで登場するのがライオネス飛鳥と長与千種のタッグ「クラッシュ・ギャルズ」だ。波乱の現役生活を終えた長与へ新たな道を示したのは演出家のつかこうへいだった。長与千種とつかこうへいの知られざる交流を紹介しよう。本稿は、柳澤健著『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(光文社未来ライブラリー)を一部抜粋・編集したものです。
プロレスラー引退後にきた仕事は
大食いやバンジージャンプの挑戦
プロレスを引退した長与千種は24歳で芸能界に転身した。
引退して初めてわかったのは、プロレスは色物でしかないということだった。
プロレスが普通のスポーツではないことは確かだ。スポーツ選手の目的は勝利だが、プロレスラーの目的は勝利にはなく、観客の心を動かして、再び会場に足を運んでもらうことにあるからだ。
しかし、肉体だけを使って観客を興奮させ、泣かせ、喜ばせ、怒らせ、悲しませ、驚かせるために、プロレスラーがどれほどの代償を支払っているかを知る者は少ない。
ライオネス飛鳥は肋骨が折れても隠し通し、タイヤのチューブを開いて腹に巻いて試合に出た。膝を負傷して「無理すれば一生歩けなくなりますよ」と医者に忠告された時にも、全治1カ月と診断された重傷を1週間で治して復帰した。
長与千種が場外の椅子に突っ込んでいけば必ずどこかに裂傷を負った。鼓膜が破れることはしょっちゅうだったし、3カ月続けて膝を脱臼したこともあった。
頸椎損傷や、折れた肋骨が内臓に突き刺さるような生命に関わる重傷でない限り、レスラーたちは痛みに耐えつつ試合に出場する。それが彼女たちの仕事だからだ。