「贅沢ばかりをしちゃいけないよ」の真意

 豊田大輔氏といえば、トヨタ自動車が建設中の実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」プロジェクトのリーダーの一人として知られている。将来的には、トヨタ自動車を背負って立つ重要な存在になるかもしれない。

 ある日、小山氏と大輔氏、そしてその父・章男氏の3人がカヌーで川下りをすることになった。章男氏が同行することを知った「小山氏の家族」の反応も非常にユーモラスなのだが、割愛する。カヌー下りが終わった後、冒頭で引用した章男氏の言葉が飛び出す。

「贅沢ばかりをしちゃいけないよ。だから今から銭湯に行こう」

 この発言に小山氏は少し困惑する。自宅のお風呂に入れば無料なのに、有料の「銭湯」を贅沢を戒める文脈で使う章男氏の発言が、彼の常識とはかけ離れていたからだ。また、小山氏は大輔氏の友人として、豊田家には巨大な風呂があることも知っている。

 ここで小山氏は気づく。章男氏にとっては、自宅のような贅沢な設備ではなく、みんなで共有する銭湯こそが我慢をともなう体験なのだろうと。この解釈に妙に納得してしまった。

 豊田家のようにトヨタグループを代々率いてきた家系では、世間とは異なる生活スタイルを送っているため、どうしてもズレが生じてしまう。しかし、章男氏はそのズレを修正しようとする「生真面目さ」を持っており、それが滑稽に見えるものの、どこか好感を抱かせるのだ。