オープンイノベーションの
あるべき勝ち筋とは

  近年、多くの日本企業が掲げるイノベーション戦略には「オープンイノベーション」という言葉が躍ります。しかし、ここにも大きな誤解や問題があると指摘されています。

 オープンイノベーションという言葉がビジネスの世界で使われるようになって久しいのですが、ここでも勘違いが起こっています。

 まず、オープンイノベーションの反対語はクローズドイノベーションです。つまりは自前主義・抱え込み主義で、一社あるいは一グループだけでイノベーションを成し遂げようというものです。他方、オープンイノベーションは多数の企業などが協創的にイノベーションに取り組むことです。しかしながら、日本企業が謳うオープンイノベーションのほとんどは、「コラボレーティブ・インベンション」にすぎない。つまり、研究開発段階における共同開発だけになっているのが実態です。

 では、本来あるべきオープンイノベーションとはどんなものか。それは「シェアドビジネスを前提とした、新たな価値システム全体の提供」です。そこではまず、価値システム全体のデザインが求められます。そのうえで、企業の選択肢は2つあります。

 第1の選択は、自社がシステム全体の主導権を握るという方法です。システム全体を「N×1×Nの構造」のレイヤー構造にして、その基幹となる1の部分を押さえる。その際、1とNがつながるインターフェースを標準化して他社へ提供できれば、極端な話、Nの領域は誰に担ってもらっても、何社いてもかまいません。むしろNの領域内で各社が互いに競って低価格で高品質な製品やサービスを創出してくれれば、システム全体の価値も高まります。そうした仕組みの中で、先導的に主導権を握るのです。これが本来のプラットフォーム的なビジネスのつくり方なのですが、それを理解されている経営者や新規事業担当者に出会うのは極めて稀です。

 ちなみに、あるレイヤー内のある部分のみのモデルを刷新することを「ミニベーション」と名付けています。それが全体システムの一部に留まるのか、全体をひっくり返す震源になるかは、時と場合によります。

 第2の選択は、Nの領域内で頑張ってシェアを取ろうというものです。幾多のライバルたちと切磋琢磨することが好きな企業ならば、ここで踏ん張ってもかまいません。ただし消耗戦が避けられないことは、覚悟せざるをえない。なぜか日本には、同業者との競争、特に同一レイヤー内の同一製品カテゴリーの市場シェア争奪で頑張りたがる企業が少なくありません。頑張ることが自己目的化していて、どうしても自虐的に見えてしまいますね。

 これら2つの選択肢を比べれば、1とNのどちらがイノベーションを先導・主導しているかは明らかでしょう。

 ちなみにこの考え方の原型は、十数年前に私を含めた研究チームが東京大学のプロジェクトで見出した成果でもあります。Nはオープン領域、1はクローズ領域ですので、私たちはこのN×1×Nの構造形成を促す戦略を「オープン・アンド・クローズ戦略」と呼びました。ようやく最近、人口に膾炙するようになりましたが、残念ながらその本質を理解されている方は限られているようです。

 このオープン・アンド・クローズ戦略において、新たに提供する価値システム全体とその中に組み込まれる1とNの構造、その両方をみずからデザインすることが重要なのは、先に述べた通りです。自社が貢献しうる部分をクローズドして1化すると同時に、N化すべき領域をオープン領域として設定します。そして、1とNがつながる「アンド」の部分をいかに巧みに仕込むかが肝となる。こうした戦略がオープンイノベーションのあるべき勝ち筋なのです(図表を参照)。