たとえば、風力発電が現在の石炭火力発電の大半に取って代わった場合、その過程で化石燃料の使用量は数倍に増えるだろう。

急激なカーボンフリー化への努力は
大量のCO2排出をともなってしまう

『Invention and Innovation』(河出書房新社)『Invention and Innovation』(河出書房新社)
バーツラフ・シュミル 著、栗木さつき 訳

 鋼鉄やセメントの製造からトラック輸送、潤滑油の供給まで、生産・輸送のすべてのプロセスをカーボンフリーでまかなうことができれば、化石燃料への依存は解消される。つまり、コークスを利用せずにすむ製鉄プロセス(水素製鉄法)、バイオマス発電(炭化水素より望ましい)、電気や水素だけを燃料にする輸送システムや合成潤滑油といった手法を活用するのだ。

 だが、これほど完全な脱炭素社会を実現するには、数十年をかけて少しずつ努力を続けていかなければならないことくらい、工学を専門に学んでいない者にもすぐにわかる。さらに、カーボンフリー・エネルギーへの移行を急げば急ぐほど、炭素を排出する製造・輸送プロセスに頼らなければならず、脱炭素化を実現することはできない――たいてい、ほかに代替手段がないのだから。