JERAの横須賀火力発電所JERAの横須賀火力発電所 Photo:PIXTA

わが国が2023年夏の電力危機を克服することができたのは、火力発電の貢献によるものである。中身を見ると、もちろんLNG(液化天然ガス)火力も重要な役割を果たしたが、LNG調達には不確実性が伴い続けた。電力危機克服に安定的な力を発揮し、日本国民に安心感を与えたのは、実は石炭火力であった。長期連載『エネルギー動乱』の本稿では、そのように頼りになる石炭火力であっても「日本は2040年にたたむ宣言すべき」理由を解説する。(国際大学学長 橘川武郎)

昨年猛暑で電力危機
石炭火力が救った

 2023年夏、日本は、記録的な猛暑を経験した。しかし、電力需給ひっ迫注意報・警報が発せられることは1度もなかった。

 わが国が23年夏の電力危機を克服することができたのは、火力発電の貢献によるものである。全国最大電力需要日(23年7月27日)の最小予備率時(午後4~5時)における電源別供給力を見ると、火力の比率は63%に及んだ(電力広域的運営推進機関「電力需給検証報告書」、23年10月)。

 そこでは、もちろんLNG(液化天然ガス)火力も重要な役割を果たしたが、その時期にもウクライナ戦争は継続しており、LNGの調達には不確実性が伴い続けた。その意味で、電力危機克服に安定的な力を発揮し、日本国民に安心感を与えたのは、石炭火力であった。

 22年2月のロシアのウクライナ侵略が引き起こした「天然ガス危機」は、短・中期的には代替財としての石炭の価値を高めた。発電用石炭(一般炭)のオーストラリア・ニューカッスル積みトン当たり価格は、22年年初には160ドル台であったが、ウクライナ危機が本格化した同年9月6日には、463.75ドルの高値を付けた(RIM「新春特集=一般炭価格、23年にも歴史的高値継続の可能性大」、23年1月2日)。

 一方、日本では、次ページの表が示すように、22年から23年にかけて、比較的二酸化炭素の排出量が少ない高効率の超々臨界圧(USC: Ultra Super Critical)石炭火力の新規稼働が相次いだ。これらの発電所は、わが国のエネルギーの安定供給に大いに貢献することになった。

 しかし、いくら高効率のUSC石炭火力であっても、二酸化炭素を大量に排出することには変わりはない。つまり、石炭火力がある程度「復活」し、それへの依存期間が延びるということは、最終的に石炭火力をたたむ道筋を示すロードマップを明示する必要性が一層高まったことも意味するのである。問題があるAという手段をやむを得ない事情で使う場合は、必ず、Aから脱却する道筋をもまた、併せて提示しなければならないからである。