大塚HDは2度目の「特許の壁」を乗り越えられるのか?加速するM&Aの実情と2つの盲点Photo:医薬経済社
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 この夏で創業60周年だそうだ。大塚ホールディングス(HD)の中核会社をなす大塚製薬である。人に例えれば還暦で、昔ならば長寿を祝うところであろう。だが、残念ながら同社を巡る状況は、関係者が諸手を挙げて喜べるタイミングにない。周知の通り、大塚のグローバル展開を支えた持続性抗精神病薬「エビリファイメンテナ」が10月に、常染色体優性多発性嚢胞腎治療薬「ジンアーク」が来年にそれぞれの特許が切れ、同社の試算で約3100億円もの減収が見込まれているからだ。

 パテントクリフは新薬メーカーが避けては通れない宿命であり、その崖を、いかになだらかに修復できるかが経営者の腕だと見做されるようになって久しい。組織を率いる人徳なり、経営哲学なりは正直なところ、二の次とされている。サイエンスに立脚した事業を営みながら、先見の明よりも、しばし「運」に左右されがちという点についても、実に皮肉な構図であるとつくづく思う。

 国内の主要各社を見渡してみても、首尾よく対応できているのはロシュ傘下の中外製薬くらいで、免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」の大成功で長い惰眠から覚めた小野薬品は28年から経営の隘路に突入する。ADC(抗体薬物複合体)に沸く第一三共もやがては、山が高い分だけ深い谷に直面することになるだろう。

 こうしたなか、2000年から20年にわたって大塚製薬の社長を務め、そのポストを井上眞氏に譲り会長となった後も、大塚HDの舵取りを08年以来担う樋口達夫CEOにとって、この“24・25年問題”の解決が企業経営者として恐らくは最後のミッションとなると想像する。28年12月期を最終年度とする5ヵ年の中期経営計画をクローズする前後には功績が定まっているに違いない。果たして、幸運の女神フォルトゥナは彼に再び微笑むであろうか。