大型のがん治療薬で躍進続く第一三共、復活を狙う武田薬品工業、創薬力に定評のある中外製薬……、5年後の医薬品セクターの勢力図はどうなるのか。薬価引き下げ圧力など業界環境が厳しい中、問われるのは各社の新薬開発力だ。特集『高配当・半導体・生成AI超進化!5年後の業界地図』(全19回)の#15では、承認取得が複数進行中の大型薬の具体的な名前を挙げながら、意外なダークホース企業やバイオベンチャーなど注目の中堅企業についても紹介する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)
第一三共はがん治療薬が拡大
時価総額は10年で10倍に
日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新する中、蚊帳の外だったのが医薬品セクターだ。
2020年初から24年6月18日まで日経平均が66%上昇した一方、医薬品セクターの上昇率は13%にとどまるのだ。医薬品セクターの主力企業7社の株価を確認すると、日経平均を上回る成績だったのは第一三共だけである。
業界環境が厳しい中、「画期的な新薬の開発」の重要度が増している医薬品セクター。足元は複数の大型薬で承認取得が進む第一三共に勢いがあるが、5年後の勢力図はどうなるのか。
UBS証券の酒井文義アナリストは医薬品セクターの株価低迷の背景について「毎年の薬価改定による価格引き下げや日本企業の創薬力に対する懸念がある。新型コロナのワクチンや治療薬の開発でも日本企業は周回遅れだった」と説明する。
少子高齢化で医療財政が苦しい中、抗体医薬品や遺伝子治療などの新薬は高い薬価を付けられるが、それ以外はコモディティ化していく流れは変わりそうにない。画期的な新薬の開発が必要になるわけだが、開発難易度は上昇しており、研究開発費も高騰するなど製薬業界を取り巻く環境は厳しい。
一方、医薬品業界は個別性が強い業界だ。画期的な新薬を開発できれば、マクロ景気や外部環境に関係なく業績も株価も飛躍できるセクターでもある。実際、医薬品セクターで時価総額首位に躍り出た第一三共は、直近10年間で株価が10倍に大化けしている。
大和証券の橋口和明シニアアナリストは、5年軸でポジティブな材料として「グローバルで収益を上げられる会社の台頭」と「不採算品再算定」を挙げる。
不採算品再算定とは、薬価が毎年引き下げられる中、収益性が悪化して販売継続が困難になっている薬について「薬価を引き上げる」特例的な措置のことだ。「事業の効率化を図っていた企業は今回の改定で収益が上がりやすくなる」(橋口氏)という。
みずほ証券の都築伸弥シニアアナリストは「今後は海外での自社販売の拡大が不可欠」と指摘する。
「直近では小野薬品工業や協和キリンが海外での自社販売を強化した。各社の海外売上高比率はさらに高まるとみている」(都築氏)
今後5年間、グローバル競争を勝ち抜いて業績や株価を大きく伸ばす企業はどこか。次ページでは、承認取得が複数進行中の大型薬の具体的な名前や各社の明暗について、具体的企業名を挙げて解説。時価総額上位の主要企業はもちろん、ダークホース的な中堅企業や今期が正念場となる企業についても紹介する。