IMFのデータから外されている金融資産項目

 これで分かった。財務省がIMFに報告している一般政府部門の純負債は、金融資産のうち「通貨・預金、負債証券等」以外の資産項目の大半が、ごっそり対象外になっているのだ。

 その結果、財務省が「日本の財政関係資料」に記載し、かつIMFに報告している純負債が、日銀が公表している実際の資産・負債の差額と大きく乖離する結果になっている。純金融資産から対象外になっていると思われる大きな項目は株式214兆円、その他持分126兆円(2023年末時点)などである。ただし他主要国も日本の財務省と同様の対応をしているわけではないらしい。IMFはこの点については各国の財務省の裁量に委ねているようだ。

 これをもって「日本の財務省は、一般政府部門の資産を過少に報告することで、その純負債を過大に示している。その意図は、『財政再建』のための増税を押し通すためだろう」と考える人もいるだろう。ただ、そう決めつける前にもう少し事実関係を整理してみよう。

 まず、中央政府と一般政府の純負債残高の大きな違い314兆円(=839兆円-525兆円)の主要因は、一般政府が社会保障基金を含んでおり、同基金が353兆円の純資産を保有しているからだ。その大半は公的年金の積立金の運用だ。そして公的年金の運用資産額の増加で、社会保障基金は2020年6月から2024年6月の期間中に119兆円も資産額を増やしている。

 これは図表1に黄色縦棒で示した一般政府の純負債残高が中央政府のそれ(青色縦棒)以上に急速に減少している主要因である。もちろん、この巨額な資産増加は、2014年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の担う公的年金積立金の運用ポートフォリオを従来の日本国債中心から、内外の株式と債券4分割方式に見直しをした結果、近年の内外株価の上昇と円安で巨額のキャピタルゲインが発生している結果だ。

 公的年金積立金の巨額の運用益は、今年行われた公的年金の持続性を検証する財政検証でも、将来の年金給付の「所得代替率」を目立って改善するほどのものになった。

 さて、ここでぬか喜びをせずに気が付くべき重大なポイントがある。公的年金の運用資金は資産計上されてはいるが、実際は「純資産」ではない。なぜなら年金運用資産は、将来政府が国民に行う年金給付義務(政府サイドからは国民への債務)を見合いに運用されているからだ。

 本来であれば、将来にわたる公的年金の保険金収入と支払い給付金額を現在価値に換算して、それぞれ資産、負債計上すべきだが、現代の公会計では筆者が知る限りどこの政府もそんなことはしていない。前掲のIMFのPSBSもこの点では同様だ。その結果、形式的には「純資産」として計上されているだけなのだ。

 この点で前掲の通り財務省が「公的年金預り金などの見合資産は、財政健全化とは直接関係しません」と指摘しているのは正しい。もちろん年金積立金の資産価値が大きく増加していることは、一般政府部門全体の資産・負債が改善していることを意味していることに違いはない。

 結論をまとめると、日本の一般政府部門の純負債が絶対額でもGDP比率でも、2020年以降大きく改善している最大の要因は、公的年金運用のポートフォリオ見直しによる資産価値の増加である。ただし、それは将来の年金給付義務(負債)を見合いにした資産であり、決して純資産と見なすことはできない。