投資家は分かりやすい説明を好み、エコノミストは進んでそれに応えようとする。一つだけささいな問題がある。新型コロナウイルス流行後、米経済に関する単純明快なストーリーが当てはまらないことがたびたびあることだ。そうした単純な説明は三つの基本前提の上に成り立っている。政府支出が影響する、金融政策が影響する、成長・失業・インフレの間には自然な関連性がある、というものだ。この4年間は当てはまらなかったものの、どれも自明の理で、経済構造に組み込まれているとさえ思える。要するに、分かりにくいのだ。この三つの前提はそれぞれが議論の的となってきた。政府支出が最初にインフレへの警鐘を鳴らした。ローレンス・サマーズ元米財務長官とオリビエ・ブランシャール元国際通貨基金(IMF)チーフエコノミストは2021年、ジョー・バイデン米大統領の1兆9000億ドル(約287兆円)の景気刺激策について、経済に余剰生産力がないことを理由に、あまりにも大規模すぎると指摘した。