文字通りに「上回る部分も貸付料として追加的に徴収」すれば、JRは営業主体として増収・合理化努力をするインセンティブがなくなる。整備新幹線の着工5原則には、営業主体であるJRの同意が必要としているが、これではJRが同意するとは思えない。
もうひとつは、「鉄道各社は鉄道事業に加えて、関連する不動産やホテル、物販などの事業で収益をあげるようになってきており、貸付料の算定にあたっては、鉄道収入のみならず、新幹線開業に関わる関連収入についても算入すべきではないか」との主張だ。
関連事業収入の事前予測は困難であり、事実上、もうけのほとんどを持っていかれることにしかならない。事業開発を行うインセンティブがなくなり、新幹線の整備効果を棄損する。
財務省の資料は、「小まとめ」として、「事業費抑制のみならず、民営化されたJRの創意工夫を一層引き出す観点からも、JRが一層主体的に関与した形での整備の在り方についても検討を深めるべきではないか」と結んでいるが、提案を実行すればJRの創意工夫を失わせ、関与を縮小させることになるだろう。
今回の資料だけでは財務省の意図は分かりづらいが、2019年の資料からある程度が見えてくる。当時、工事中の北陸新幹線金沢~敦賀間、西九州新幹線武雄温泉~長崎間の事業費が増加し、事業全体の費用対効果(B/C)が1を下回ったことが問題視されていた。
財務省は「上下分離方式を採用している整備新幹線については、建設に係るコストへの責任感が薄くなっている可能性」があるとして、「建設と運営の一体的な実施や、整備新幹線事業と一体的な不動産事業等の推進など、民間資金・ノウハウを一層活用していく方法を検討」すべきと主張。さらに財源確保のために「施設の売却」も検討すべきとも記している。
これらを総合すると、整備新幹線が儲かるのであれば、利益を貸付料に反映させ確実に徴収するか、場合によってはJRに買い取らせるべき、また今後の建設においてはJRの関与と負担を増やし、国費負担を削減すべきと解釈できる。
議論の前提にあるのは、早期整備が求められる北陸新幹線敦賀~新大阪間だ。総事業費は3兆円から最大5兆円に達し、B/Cは1を割るどころか0.5程度と見込まれている。財務省としては公共事業関係費の負担増を避けるために、事業費の負担割合を見直したいというわけだ。貸付料増額とJRの関与拡大による開発の推進という「矛盾」は、財務省の中では一体的なのである。
とはいえ、整備新幹線の経緯、制度を踏まえれば、鉄道事業の受益に対する貸付料を見直すべきという財務省の指摘は無視できない。どの程度の利益であれば経営努力の結果として適正なのか、財務省が正論を振りかざしてJRのもうけを取り立てに来る前に、鉄道側はしっかりした論理を組み立てておく必要があるのではないだろうか。